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浸透圧のふしぎ ―隠された腎機能の秘密―

2006年11月06日

前回は、歯の外傷時に使える簡単な生理的食塩水の作り方について述べた。もし真水で洗ったら、水分が歯周組織に入り込む。逆に海水で洗ったら、歯周組織から水分が奪われる。ナメクジに塩をかけるたら小さく縮むのと同じ原理だ。
いずれにせよ、浸透圧の関係で細胞は大きなダメージを受ける。ところでおもしろい水族館がある。九州・博多にあるマリンワールドだ。ここでは、淡水魚と海水魚を同じ水槽に入れて飼育し展示している。さてどのようにして同じ水槽で飼っているのだろう?理屈は、わかれば簡単。淡水魚と海水魚の体液の塩分濃度は、ほぼ同じである。つまりサカナの生理的食塩水である0.6%の塩分濃度の水槽で飼育すればよい。

さてヒトにおいて体液を一定に保つ役割を担っているのは腎臓だ。腎臓は糸球体で一度排泄した水分を尿細管で再吸収する。その過程で老廃物を体から除去し、必要な水分を取り戻し、体液の成分を一定に保っている。でも、どうして排泄したものを再吸収するという、ややこしいシステムを持っているのだろう?
この秘密。海水魚は、両生類として直接に地上に上がったのではなく、淡水魚を経て上がったことにある。そのため、海水魚は淡水でも生き残るシステムを身につける必要があった。海水魚が、淡水に入ると水ぶくれ状態になる。それを防止するため多量の水分を体外に排出する必要がある。そこで腎臓の糸球体では、まず血液から水分を奪い尿として排泄しようとする。

次は、両生類となり陸に上がろうとする。しかし陸上では、容赦ない太陽熱により水分が奪われ、身体の乾燥が待っていた。そこで糸球体で作られた尿は、尿細管で水分として再び血管に戻るのだ。ヒトの腎臓は、このような経過で進化してきた。我々の身体には、このような進化の秘密が隠されていることがわかる。海が浅くなり水たまりが出来る。そこに雨が降ったら淡水になる。

 
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