2006年01月16日
今年は,戌年なので“イヌ”の話題を一つ。
1歳代の幼児は、四足の動物を見ると“ワンワン”と言って指をさす。
どうやら、この年齢ではネコもイヌも見分けがつかないらしい。
イヌを見て“ニャンニャン”と言わないのは、口腔機能の発達と関係するのだろう。
さて、イヌに対する動物といえばネコを思い浮かべる。
ところがイヌとネコの性格は、まったく反対だ。
イヌは人間になつきやすいが、ネコは人付き合いが得意でない。
イヌを呼んだら尻尾を振ってくるが、ネコは来ようとしない。
渋谷駅に“忠犬ハチ公”の像があるが、“忠猫ニャン公”なんて聞いたことがない。
獲物を捕らえる時も違いがある。
イヌは徒党を組んで、一匹の獲物を捕らえる。
一方、ネコといえば“泥棒ネコ”の言葉が示すように、ひっそりと獲物に近づき仕事を遂行する。
さらに仕事の後,体をなめ証拠を残さない。
ネコはまるで暗殺者の“ゴルゴ13”のようではないか。
では、どうしてイヌは人間に従順なのだろう?
このヒミツ。 実は人間とイヌとの関係史でもある。
イヌの祖先はオオカミだ。(図1)
図1
人間が食べ残した肉を求めてオオカミが近づいてきた。
人間は、優れた嗅覚に着目した。
そして外敵への警報機とするため、飼い慣らし始めた。
これがイヌである。(図2)
図2
諸説あるが、これが約3万7000年前。
一方、ネコとの関係は、わずか4000~6000年。
エジプト文明は、ナイル川による肥沃な大地にめばえた。
農業の発達に伴い収穫された穀物は、ネズミにより食い荒らされていた。
そこでネコを飼い始めた。
人間とイヌとの関係は、ネコより3万年も長い。
言わば、人間とイヌは幼なじみなのだ。
ところで考古学的に、オオカミと初期の家イヌを見分ける方法がある。
両者の歯と顎骨を比べればよい。(図3)
図3
飼育下のわずか数代の育種によって頭骨の顔面部と顎骨が短縮する。
さらに人間からエサを与えられると、咬むことが少なくなる。
だからオオカミに比べ、家畜化されたイヌは歯が小さい。
また、歯と歯の隙間も狭くなる。
同時に、獲物を捕る必要がなくなり嗅覚が退化する。
そうすると上顎骨が小さくなり、顔が丸く見える。(図4)
図4
そう言えばエジプトの壁画のイヌやモンゴル遊牧民のイヌは鼻が長い。
嗅覚が鈍れば、ヒツジやウマを守ることができない。(図5)
図5
話は変わるが、イヌの品評会には咬合の審査がある。
通常、咬合に問題があると審査を通過できない。
熱心な飼い主により、歯列矯正まで行うケースもある。
一方、受け口(アンダーショット)が正常咬合のイヌもいる。
短頭犬種であるシー・ズーやペキニーズなどの愛玩犬に多い。(図6)
図6
ちなみにイヌの嗅覚は、人間の数万倍である。
警察犬や麻薬犬は、犬の嗅覚を利用して防犯に役立てている。
しかし愛玩犬は、嗅覚の退化のために、家の近所でも迷い子になるという。
いずれにせよ人間が手を加え、イヌを可愛く見せてきた方法。
それは、食生活により顎骨周囲の発達を変えることであった。
図1:オオカミの剥製・イヌと比べ歯が大きい(モンゴルにて)
図2:人間とイヌとの歴史は古い。
図3:初期の家イヌ(動物文化史事典より)
図4:上・大型犬 下・家イヌ 家イヌでは顎骨が短縮している。
図5:モンゴル遊牧民のイヌ 顔が長く、嗅覚が優れていることがわかる。
図6:ペキニーズの頭骨(受け口である。)
参考:
動物文化史事典 J・クラットン-ブロック
人イヌにあう コンラ-ト・ローレンツ