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ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その21~ —レッサーパンダは、何故立ち上がったのか?—

2005年07月04日

千葉市の動物園でレッサーパンダの風太クンが、立ち上がったことが話題となっている。(図1)

 

図1
立ち上がったレッサーパンダの風太クン

 

本来、四足歩行のレッサーパンダが、何故立ち上がったのだろう?
その必然性は何だろう?

この謎解きをする前に、“動物と植物の違い”について考えてみたい。
 
 
まず「動物は体を動かすことができるが、植物は動かない。」と言われる。

・・・だとすれば、触れると、おじぎする“オジギソウ”は動物ということになる。

またサンゴは、動物であるのにもかかわらず動かない。

これでは説明がつかないではないか!

実は両者の違い、体内でエネルギーを合成可能か否かという問題である。
植物は、光合成でエネルギーを得ることができる。

ところが、動物はこれができない。
だからこそ体を動かし、獲物を捕獲する必要があるのだ。
 
 
さて、診療室で脳性麻痺児の摂食訓練を行いながら気がつくことがある。

子ども達にスプーンで口の中にヨーグルトを入れてしまうと、嚥下するだけの動きしか見られない。

ところが、ヨーグルトを口唇で捕食させるように与えると、口唇を閉鎖し嚥下が誘発される。

さらにスプーンを下口唇に当て待っていると、上口唇を伸ばせ捕食しようとする。

また首のすわりが十分でない障害児でも、頭部を前に出して捕食しようとする。(図2)

 

図2
脳性まひ児の摂食訓練は、まず口唇閉鎖から始まる

 

これを繰り返していると、首のすわりが良くなることを経験する。

獲物を求める本能は、かくも凄いエネルギーに変換されるのだ。

患者さんの状態によって異なるが、口の中に入れて嚥下を誘発するのは、植物的な訓練。

捕食させるように誘導するのは、極めて動物的な訓練と言えまいか。
 
 
ところでヒツジ(羊)とヤギ(山羊)の違いをご存知だろうか?

同じ草食動物の偶蹄類の仲間であり、口や歯の構造も同じである。
ヒツジ(羊)の字に山をつければ、ヤギ(山羊)になる。
この字が示すように、ヒツジは草原に住み草を食べる。(図3)

 

図3
ヒツジはグレイザー(草食い)

 

一方、ヤギは山に住み、木の若葉や新芽を食べる。(図4)

 

図4
ヤギは、ブラウザー(葉食い)

 

住む場所により食性が異なることがわかる。
ヤギはエサを求め、前足を木にかけ立ち上がらなければならない。
首の長いキリンでさえ、高い木の葉を食べるために立ち上がるのだ。
 
 
さてレッサーパンダは、雑食性であり昆虫のほか竹や木の葉を食べる。

動物園では、「レッサーパンダはエサをもらう時などには二本立ちしてきた」と言っていた。

そう!立ち上がった背景には、このような食性があったのだ。

さらには、木の葉を食べるため解剖学的にも立つことが可能な骨格をしていた。

動物は、エネルギーを作り出すことができないが、エネルギーを求めるエネルギーが私たちを生み出し進化してきたことがわかる。
 
 
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図1:立ち上がったレッサーパンダの風太クン
図2:脳性まひ児の摂食訓練は、まず口唇閉鎖から始まる。(モンゴル障害児施設での風景)
図3:ヒツジはグレイザー(草食い)
図4:ヤギは、ブラウザー(葉食い)

 ※図3・4は 動物解体新書(実吉達郎著)より引用
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