2016年04月18日
“唾液”の字は“口から垂れる液”を意味する。
“よだれ”も唾液が余って垂れるから“余垂れ(よだれ)”と言うらしい。
さて、小児歯科医として、子どもの口を診ていて気になることがある。
以前は子どもが口を開けていると、唾液が口から溢れ出て困ったものだった。
防湿のためラバーダムを装着しても、横から漏れ出してくる。
ラバーダムの下に排唾管を挿入し治療したものだ。
そんな状態での歯科治療は、たいへんだ。
乳歯冠に唾液が付くと、まるで“指先で金魚をつまむくらい”ヌルヌルしていた。
誤って落下させると窒息事故につながりかねない。
唾液は、歯科診療にとって邪魔な存在であった。
ところが・・・である。
最近の子ども達は、口を開けていても唾液がたまらない気がしてならない。
おかげで診療は楽になったのだが、どう考えてもこれが正しいとは思えない。
どうしてだろう?
この原因の一つに食生活の変化があるのではないかと思っている。
最近、常に水やお茶を飲みながら食べている子ども達が多い。
流し込み食べをすれば、体は唾液を出す必要がなくなる。
唾液を出すためには、食事中の水やお茶を控えることである。
ちなみに筆者は、このような食べ方を“水洗式咀嚼”と呼んでいる。
昭和30年代まで、食事中にお茶を飲むと“行儀が悪い”と言われたものだ。
そう言えば長谷川町子さんの漫画の“サザエさん”。
昭和20年代後半から40年代まで朝日新聞で連載されていた。
つぶさにチェックしたが、食事時の食卓には湯のみが描かれていない。
食事が終わった者からお茶を飲んでいる。
そして食事後に、全員そろってお茶を飲むのである。
当時、お茶は茶碗の米粒を洗い流すものであったように記憶している。
現在でも風習で、お茶は食後まで出ない宿坊もある。
それが日本の習慣であった様に思う。
ところが現在、ファミレスではまず水を持ってくる。
これは、注文を取りに来たと言う目印なのである。
さて、マウスに乾燥した固形食と水分の多いエサを与え唾液腺重量を比較した研究がある。
その結果、水分の多いエサを与えられたマウスは、耳下腺・顎下腺・発達が悪かった。
同じことが現在の子ども達も、起こっているのではなかろうか・・・。
参考
菊地賢司、三木真弓、宮本幸子、有田憲司、西野瑞穂:
咀嚼が唾液腺の発達に及ぼす影響について、小児歯誌、27(2) : 427-435、1989.
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/