2010年09月21日
前回は、指しゃぶりが目と手と口の協調運動を促す役割があると述べた。
今回は、別の意味から生理的な指しゃぶりについて考える。
図1は、胎生14週における胎児の指しゃぶりである。
出生時にすでに指に“吸いダコ”が見られることもある。
面白いことに、妊婦が空腹時には指しゃぶりの頻度が増加すると言う。
母親の血糖値によっても影響されるのだ。
胎生期の指しゃぶりは、生後の吸啜行動の準備をしていると説明される。
さて出生時に見られる“原始反射”は、摂食や防衛など生きて行くために必要である。
口腔周囲の主な原始反射として
1.口唇探索反射:
口唇や頬に乳首が触れると顔を乳首に向ける。
2.口唇反射:
口唇を刺激すると、口唇を丸めて突き出し乳首を捕捉する動きをする。
3.吸啜反射:
口唇に乳首が触れる徒、母乳を吸い込もうとする。
これらがなければ、新生児は哺乳することができない。
4.咬反射:
指で歯グキを刺激すると咬もうとする。
肉食動物が獲物に咬みついた後、
5.舌の挺出反射:
固形物を与えると、舌を突出させ排除しょうとする。
以上のように口腔に多くの反射の誘発ポイントがあることは、新生児にとって口は鋭敏な、そして最大の感覚器官と考えられる。
新生児や乳児が、おもちゃを舐めるのも、拳骨を舐めるのも、足の指まで舐めるのも口で世界を感じ取っているのである。
そう言えば、ペンフィールドの図。
顔や口は、脳の感覚野と運動野に占める割合が大きいことは有名だ。
しかし、この図は下方の部分から発達することは、あまり知られていない。
そう考えると、新生児や乳児期においては、ますます口の割合が大きくなる。
鋭敏な感覚器官であるほど、強い刺激に対しては弱くなる。
舌の挺出反射を例に述べてみよう。
新生児に固形物を与えると、舌を突出させ排除しょうとする。
それを受け入れると窒息する可能性があるためだ。
しかし、このままでは固形食が食べられない。
そこで徐々に、固形食に慣らせる必要がある。
これが離乳のステップ。
これを通じて、口腔感覚を鈍感にする。
口腔の感覚は、いつまでも鋭敏過ぎては困るのだ。
さて原始反射は、脳幹部による反射であるが、生後4ヶ月頃より見られなくなる。
これは上位中枢の発達や、さまざまな感覚刺激に対し鈍感になるためである。
しかしながら脳性まひ児では、いつまでも残ることが多い。
図4は、歯ブラシで口唇を触った瞬間、緊張で手が挙がっている。
図5は、咬反射のため口唇を咬みちぎった児である。
自分の意思とは別に咬み込んでしまう。
しかも自力で外すことができないのである。
また、咬反射のため歯ブラシを咬み込むことも多い。
歯磨きを嫌がって、口を閉じるのではないのだ。
さて、これらが改善されたきっかけとして“指しゃぶりを始めた”という理由が多い。
手を口に持って行くことで口腔が脱感作され、咬反射が消失したと考えられる。
指しゃぶりには原始反射を消失させ、口腔を鈍感にする働きもあることがわかる。
>>岡崎先生のホームペ-ジ
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