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ダーウィン医学4 喉頭蓋がなくても誤嚥しない!?

2009年03月16日

今回から、ダーウィン医学を考慮しながら専門領域に話を進めてみる。
さて喉頭蓋は、気道にフタをして嚥下をスムーズにする器官である。
このおかげで鼻から入った空気は気道に流れ、食物は食道に向かう。
咽頭腔は両者の交差点であり、喉頭蓋は信号機と言える。
脳血管障害等により、この信号機が壊れたり点灯のタイミングがずれることが誤嚥の原因である。

ところで解剖学の養老孟司先生の著書を読んでいると、興味深いことが書かれていた。

喉頭機能が正常の場合、手術で喉頭蓋だけを切除してもあまり問題にならないとのことである。
喉頭蓋がなければ、誤嚥は必発だと思っていたがそうではないらしい・・。
ここに反回神経の麻痺が加われば誤嚥に至るのだ。

また、喉頭蓋は完全に蓋をしているわけではない。
嚥下時には一瞬呼吸が止まる。
この時、声門は閉じて誤嚥を防いでいる。
喉頭蓋や声門など、誤嚥を防ぐための安全装置が二重三重にも備わっていることがわかる。

ところで四足の哺乳類は、誤嚥しないと言われている。
喉頭蓋が大きく、嚥下時には軟口蓋の上まで挙上し、軟口蓋の後縁も長い。
だから食物が気管に入り誤嚥することがないのだ。
口腔の食物は食道へ、鼻腔の吸気は気管へと立体交差していると言える。

四足動物ほどではないが、乳児も喉頭の位置が高く、鼻から入った吸気は気管に入り食物は胃へと流れ込む。
だから乳児は、母乳を飲みながら呼吸しても誤嚥しない。

しかし、首がすわる生後3ヶ月頃になると喉頭は下降し始め、立って歩き始める頃には急速に下がる。
そして3歳では成人の位置付近に近づき、さらに運動能力が増す5歳では同位置となる。
ヒトは、二足歩行や成長に伴い、重力によって喉頭の位置が下がり咽頭腔が広がる。
さらに、高齢者では椎骨の1~2個分下がるとされている。
喉頭が下がれば、咽頭腔の交差点が広くなる。
だから、誤嚥を起こすリスクが増える。
加齢にとって信号機が、黄色の点滅を始めるのだ。
しかし、ヒトにおいてリスクと引き換えに“ある機能”を獲得した。
さてその機能とは、なんだろう?

次回に続く

 

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