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謎解き唾液学 【18】母乳と酸蝕症??

2016年06月06日

母乳は、乳児にとって免疫学的、栄養学的など生物学的な面から重要だ。

中でも人間においては、母子の絆など精神発達とも深く関係する。

そこで母乳育児が推奨されている。

(図1)
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しかし、乳歯萌出後も飲み続けるとう蝕のリスクが高まる。

低年齢児では、まず上顎乳前歯に初発する。

すると瞬く間に臼歯部に波及し、その処置は困難を極める。

(図2)
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母乳育児をしながら、低年齢児のう蝕を防ぐはないものか?

さて母乳がう蝕になりやすい理由。

それは欲しがる時に飲む習慣が、間食の不規則性につながるという。

十分考えられることである。

ところで乳前歯のう蝕は、唇側面の歯垢が付着した部分にできる。

(図3)
s_スライド3

しかし、よく観察すると口蓋側に初発していることがある。

また不思議なことに、歯垢が付着していないのだ。

(図4)
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保護者に尋ねても、砂糖を含む菓子類を与えたことがないと言う。

歯垢の付着があれば、“ミュ-タンス菌が砂糖を分解してできたう蝕”である。

このようなケース。

筆者は“う蝕”ではなく“酸蝕症”を疑っている。

すなわち、歯垢の関与なしで、脱灰が起こっていると思われる。

その理由について述べてみよう。

さて、乳酸菌は母乳に含まれる乳糖が大好きだ。

従って母乳を飲めば、腸管内の乳酸菌が増える。

この菌が出す酸によって、他の雑菌に抑制がかかる。

それが、免疫系を刺激して健康に影響する。

ところで腸管内に乳酸菌が増えれば、口腔内も同じだろう。

実際、授乳期間中は口腔内の乳酸菌も増える。

しかも、眠っている間は唾液が出ないので、極端に唾液緩衝能が低下する。

母乳を飲みながら眠ってしまうと、舌と乳前歯の口蓋側との間は母乳で満たされる。

これを利用して乳酸菌が多量の酸を出す。

そこで口蓋側だけが脱灰される。

だから歯垢がなくても、局所的な“酸蝕症”が起こっているのではなかろうか?

(図5)
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しかし、乳児が眠りにつくと、起こして歯を磨くのはたいへんだ。

母親自身も、そのまま眠ってしまいたい。

さてさて、この様な状況下でどのように予防すれば良いのだろう?

続く

前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
⇒ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/