2006年07月03日
昨年「食育基本法」が施行されて以来、食育にまつわる講演会や事業が急増している。
それに伴い歯科医師会から、食育についての情報が欲しいという依頼が増えた。
さて食育の話は、すべて歯の話につなげることが可能である。
“噛むことの重要性”を広く一般市民に普及するために、こんなチャンスは滅多にない。
当たり前のことであるが、歯は“齲蝕や歯周病になるために”生えてきたのではない。
また“磨くために”生えてきたものでもない。
歯は食物を噛み、消化吸収の効率を良くするために生えてきた。
これは生物の進化と生命保持のための第一の原則である。
ところで、“噛む”という字を入力していて“ふしぎなこと”に気がついた。
ワープロで“かむ”と打つと2種類の“かむ”に出会う。
ロの横に歯の字を使う“噛む”と、歯の中に人の字を4つ入れる“噛む”(←ソフトによっては字がありません。失礼!)とがある。
さて、あなたはどちらの字を見ておられるだろうか?
“噛む”(←米の字)の字をディスクに保存して、他社の機種で出力をすると“噛む(←人の字)”と字が変わって打ち出されることがある。
逆に噛む(←人の字)の字を入力したのに“噛む”(←米の字)で出力される場合もある。
ワープロメーカーによって字が異なることがわかる。
それでは噛む(←米の字)と噛む(←人の字)では、どちらが正しいのだろう?
1:噛む(←米の字) 2:噛む(←人の字) (図1)
図1
さて、当用漢字を調べると「噛(人の字)」の字が書かれてあるので、こちらが正解だ。
しかしながら一歯科医として、米の字を使いたいと思う。
なぜなら日本の食文化は、米を中心に築き上げられてきたからだ。
最近では、米の消費量が減り、パン食が増えている。
パンは、米と比べ水分が少なく飲み込みにくい。
だから清涼飲料水で流し込むため、糖分の摂取量が増える。
当然、噛む回数も減るだろう。
さらにバターやマーガリンを使うため脂肪の摂取量も増える。
これが肥満の原因となる。
軟食文化の代名詞であるハンバーガーは、この典型である。
軟らかい食物は、顎の発育を抑制するばかりでなく、齲蝕や歯周病の増加につながる。
人を食らうの“噛む(人の字)”の字は、どこかのファンドの元代表だけで十分だ。
やはり日本人の歯を守るためにも、“噛む”(←米の字)の字を使いたい。
しかし・・・だ。
最近、“噛む(人の字)”の方が良いと思い始めた。
字源辞典によれば人の字は,象形文字では「∧」。
すなわち「牙」を表している。「∧」がずれて「人」となっていたのだ。
もちろん“歯”の字も同様、口の中に“牙”がなければ格好が悪い。
“歯”の中の“米”を抜くと“無歯顎”。(図2)
“歯”の米を“入”にすれば,“義歯”となる。(図3)
口の中に“牙(歯)”がなければ、美味しい米を食べることはできないだろう。
食育運動の推進の成否は、歯の存在にかかっているといっても過言ではない。
図2
図3