2011年12月19日
これまで、子どもが歯みがきを嫌がる理由を保護者の要因から述べてきた。
今回は、子どもの要因について考えてみる。
さて、放送作家の永六輔氏の本に「胃カメラを飲むっていう言い方はやめて貰いたい。正しくは胃カメラを無理に押し込むって言うべきでしょう」との一節がある。
(注1)
これを読んで「なるほど!」と思った。
筆者も一度胃カメラを飲んだことがある。
口元にカメラの先が来て「これを飲んでください!」と言われても、簡単に飲み込めるものではない。
タイミングが少しずれると、お決まりの苦痛が待っている。
この一件以来、診療中に患者さんの呼吸を意識するようになった。
私達は、診療中に印象を採る。
このなにげない動作の中で、患者さんは呼吸を調整している。
例えば、トレーが口に近づいてくると大きく息を吸う。
それが入る瞬間には、息を止める。
硬化までの間は、唾液など咽頭に流れ込まないようにしながら呼吸をする。
トレーを除去すると、息を吐いて次の呼吸に移る。
もし、トレーに合わせて呼吸調整ができなければ、苦しい思いをするに違いない。
ところで、相手の動きに合わせて調整ができないのが低年齢児である。
歯ブラシを嫌がる理由の一つとして、この点は重要だ。
・・・だとしたら、子どもが歯ブラシの動きに合わせて、呼吸調整できるように誘導させればよい。
方法は、簡単である。
次の2点を意識して磨く。
まず第1点。
寝かせ磨きの際、“子どもの視野に歯ブラシを入れ、ゆっくり口に近づける。” これに合わせて子どもは、大きく息を吸う。
そして磨かれている間、息を止めているのである。
次に第2点。
“磨く時間を短めにする。” 息を長時間止めていると苦しい。
しかし保護者は、歯ブラシを口に入れたのだから、できるだけ長時間磨こうとする。
これが裏目に出る。
だから嫌がって暴れるのである。
しかし、短時間で歯ブラシを抜かれたら、口唇を閉じて唾液を嚥下する。
そして、次の呼吸に移ることができる。
子どもが慣れれば、長時間磨いても大丈夫になる。
この点に気がついたのは、20年前に聞いた永氏の講演会。
テープから言葉を起こしてみた。
「私は歯医者さんで、今吐いていればいいんですか・・・吸っていればいいんですかと聞くのです。歯科医は、治療中の呼吸のことをあまり気になさっていませんけれど、患者側にとっては大切なことなのです。」
(注2)
含蓄のある言葉である。
診療も歯ブラシも呼吸調整が必要である。
患者さんの呼吸を意識することで、お互い診療が楽になれそうだ。
注1:永 六輔著 大往生 岩波書店 1994
注2:永 六輔 氏 近畿・北陸歯科医学会
特別講演「患者体験談」(奈良県開催 年度不明)
>>岡崎先生のホームペ-ジ http://leo.or.jp/Dr.okazaki/