2012年12月28日
馬の話が続いたので、馬にまつわる面白い話をもう一つ。
明治時代、日露の開戦が余儀なくされた頃の話。
戦争に備え日本の陸軍は、中国とロシアの国境に偵察に行った。
(図1)
第1陣として、兵隊120名と1トン以上もある大型の馬40頭を従えアムール川を遡った。
1か月後に食料の補給のため第2陣が合流する予定であった。
しかし猛烈な吹雪が続き、第2陣は合流地点までたどり着くことができなかった。
第1陣は、孤立して食物がなくなっているはずである。
早く行かないと、餓死と凍死を待つのみだ。
10日遅れでやっと合流した時、全員元気で無事救出を果たした。
ある獣医師が機転を利かせたのだ。
さて、どのような機転なのか?
まず考えられるのは、馬の肉を食べることだ。
モンゴル遊牧民は、家畜を食べるが、馬の肉がもっとも体を温め元気が出るという。
ヒトを乗せ疾走するため、栄養価が高く牛肉の3倍ものグリコーゲンが含まれるという。
ところが・・・
明治時代のことである。
軍馬は、天皇陛下から賜ったものだ。
だから、食べるなんてとんでもない。
他に考えられること・・・。
馬の乳を飲むことか?
そう言えば、モンゴルでは夏になると馬の乳から馬乳酒を作る。
栄養価も高く、これだけ飲んで一夏を過ごす人もいる。
(図2)
しかし、これは季節が限られる。
そもそも急に乳が出るわけがないではないか。
さて獣医師の提案は、大量の草を刈り、馬に与えるというものであった。
・・・だとしたら馬糞???
乾燥した物なら、ストーブで燃やして暖をとることはできる。
しかし、さすがに馬糞は食べられない。
少し余談ではあるが、馬糞で思い出したことがある。
遊牧生活では、牛糞も馬糞もストーブの燃料となる。
乾燥しているから燃料になりやすいのだ。
(図3)
面白いことに牛糞は、普通の燃料になる。
しかし、馬糞は虫よけ効果もあると言う。
この理由は、両者の消化システムの差だ。(注1)
モンゴルの草原は、カモミールなどハーブの臭いに満ち溢れている。
そもそもハーブの臭いは、植物が虫に食われないために作り出した防御物質である。
牛や馬は、これも食べている。
以前、述べたが、牛は反芻するため草の消化効率が高い。
一方、馬はそれがないから未消化物が糞に混じる。
だから馬糞を燃やした煙は、ハーブの臭いがするのだ。
これが虫よけ効果をかもし出す。
さて本題に戻る。
まず、馬に多量の草を与え栄養を補給する。
次に獣医は、40頭の馬の血管から血を抜いたのだ。
それを飯盒(はんごう)で温めて兵隊に分け与えたという。
なるほど!
その方法があったのか!
そう言えばモンゴルでも、羊の腸に血液を入れゆでてブラッドソーセージを作る。
(図4)
アフリカのマサイ族の主食も牛乳と血液である。
イヌイットもアザラシの生肉を食らう。
血液は完全栄養食だったのである。
いやはや先人の知恵には、頭が下がるばかりである。
注1:モリタメールマガジン 第87号 「草食動物の消化システムと歯」
⇒ https://www.dental-plaza.com/melmaga/column87/index.html
参考:カイチュウ博士と発酵仮面の「腸」健康法 藤田紘一郎・小泉武夫 中経出版
>>岡崎先生のホームペ-ジ
http://leo.or.jp/Dr.okazaki/