2018年11月16日
前号では、王貞治さんは、現役引退する時に歯がボロボロだったという話がありますが、それは悪習癖が原因だったのではないかとの私の推論をお伝えしました。
今回はもう少しその推論を深掘りさせていただきます。
ヒトが進化の過程で、4足歩行から2足歩行に変わった時、脊椎と頸椎の角度が大きく変わっています。
4つ足動物の脊椎と頸椎の角度は、おおざっぱに90度くらいです。
頭部を吊り上げるために大きな力がかかり、強力な後頸筋群が必要で、4つ足動物の脊椎棘突起はよく発達しています。
脊椎と頸椎の角度が90度でそのまま直立すると、頭部は真上を向くことになります。
そこで、人間は脊椎と頸椎の角度がまっすぐになります。
まっすぐになったので、後頸筋群で頭部を引き上げる必要がなくなりました。
なので、後頸筋群は発達していません。
直立した人間が頭部のバランスを何でとっているかといえば、下顎です。
下顎が頭部にブランコのように3次元的にゆらいで、微妙な頭部のバランスをとっているのです。
話は、王さんに戻ります。
王さんは1本足打法というバッティングスタイルを確立し、ホームランを量産しました。
1本足というあえて体の基礎部分に大きな揺らぎを作り、その反動を利用して、より大きな力を発揮されたのだと思います。
下半身がゆらぐと当然、頭部もゆらぎます。
頭部のゆらぎは下顎で補正します。
本来、安静空隙がある状態ですと、下顎は3次元的に動きます。
しかし、TCH(tooth contacting habit、上下歯列接触癖)の場合、上下の歯がかみ合ってしまっているので、かみ合ったまま、下顎を大きく2次元的動かすことでバランスをとられたのだと思います。
よって、大きな臼のような動きとなり、歯がすり減っていったと推測します。
ボールがバットにあたるインパクトの瞬間に歯をかみしめた方が力は入るのかもしれません。
しかし、それは一瞬のわずかな時間のはずです。
素振りの時や本番のバッティングの時でも、バックスイングやフォロースイングの時にかみしめる必要はないのです。
おそらく、本番を想定した素振りなどのトレーニングの際も、かみしめがあり、それが常態化し、脳からのかみしめストップ指令が機能しなくなり、TCHやブラキシズムが習慣化してしまったということではないでしょうか。
王さんは、歯がボロボロにならなくても、すごい選手でした。
TCH等の誤った習慣により歯がボロボロになった。
ここは分けて考えなくてはならないと感じます。
断っておきますが、私は王さんが大好きです。
ただ、歯がすり減るほど努力して結果を出した人というイメージは歯科医師として正さなくてはならないと感じています。
努力をして最高のパフォーマンスを出したということに異論はありませんが、歯をすり減らす必要はなかったのです。
王さんの話が有名なので、ここで出させていただきましたが、日本には、歯をかみしめて頑張る姿が美徳のようなイメージを含んでいるような風潮があるように感じます。
歯をかみしめて頑張ってはいけないのです。
むしろ歯をかみしめないように頑張ることが、健康寿命の延伸につながります。
竹屋町森歯科クリニック 院長
森 昭