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口腔内からの健康増進を絡めた医院づくり【3】アスリートの口の中の特徴

2018年11月02日

今回は一般的なアスリート、特に筋トレなど無酸素運動が多い方の口の中の特徴です。

●骨隆起
●臼歯の歯冠、歯根の破折、隣接面カリエス
●咬合面 切端の咬耗

写真は、いずれもTCH(tooth contacting habit、上下歯列接触癖)の方の特徴ですが、40歳代くらいになると奥歯からトラブルが出てきて、喪失していきます。
歯の喪失したところにブリッジ、義歯などの補綴。
インプラント治療をしてもトラブル続きで、患者さん本人も担当歯科医師も悩まし続けます。

なぜこのような口腔内になるのでしょうか?

世界のホームラン王・王貞治(元福岡ソフトバンクホークス監督)さんが、現役を引退する頃には、歯がボロボロだったという話は有名です。
この話が伝えられるとき「歯を食いしばってトレーニングをして歯をすり減らすことは、スポーツ選手として成績を残すためにやむを得ない。」というような、歯のすり減りが、根性の証であるかの風潮があると感じます。

はたして本当でしょうか?

意識のあるときの最大咬合力が12kg/cm2。睡眠時のくいしばり74kg/cm21)いくらホームラン王の王さんがインパクトの瞬間をイメージしてトレーニングしていたとしても、それ以外の時間、意識して上下の歯が接触しないようにしていたとしたら、睡眠時のくいしばりをする方よりも、よほど歯にかかる負担は小さくなったと推測されます。
意識のある時に12kg/cm2以上の咬合力がかかると、脳がストップ指令を出します。
必要以上に歯が摩耗するということは、その脳のストップ指令が機能していないということです。

問題は、トレーニングによって、脳のストップ指令が機能せずにTCH、ブラキシズムが習慣化することにあるのではないかと私は考えます。

つまり、王さんは、限界を超えるトレーニングをして歯がすり減ったのではなく、『悪習癖で歯がすり減ったのではないか』というのが私の考えです。

日本咀嚼学会は噛むことの効用を、咀嚼回数の多かった弥生時代の卑弥呼にかけて、「卑弥呼の歯がいーぜ」と表現し、提唱しています。

「ひ」:肥満防止。よく噛んでゆっくり食べることで脳が満腹感を感じ、食べ過ぎを防ぎます。

「み」:味覚の発達。よく噛むことで食べ物本来の美味しさを感じることができ、味覚が発達します。

「こ」:言葉を正しく発音。言葉は噛むことにより顔の筋肉が発達し、言葉を正しく発音でき、顔の表情も豊かになる。

「の」:脳の発達。噛むことでコメカミがよく動き、脳への血流が良くなり、脳の活性化に役立ちます。

「は」:歯の病気予防。噛むことで歯の表面が磨かれ、唾液もよく出て、虫歯や歯周病の予防になる。

「が」:がん予防。唾液の成分である「ペルオキシダーゼ」には、食品中の発がん性を抑える働きがある。

「い」:胃腸の働きを促進。食品を噛み砕いてから飲み込むことで胃腸への負担が軽くなり、胃腸の働きを正常に保ってくれます。

「ぜ」:全身の体力向上。しっかり噛むことで歯やあごが鍛えられ、全身に力が入るようになります。

このように、よく噛むことの効用は多く伝えられていますが、強く噛みすぎること、もしくは、無意識で歯をかみ合わすことの弊害はあまり伝えられていません。
食事の際、しっかりと噛むことの効用を否定しているわけではありません。
また、歯をくいしばって頑張るという姿が日本人の美しい姿なのかもしれません。
それは人生50年までのこと。
人生100年になった現在、強く噛みすぎること、もしくはTCHによる健康寿命への悪影響を、歯科医院から発信すべきであると私は思っています。

次号では、『王さんはなぜ歯がボロボロになってしまったか』という私の推論を深掘りさせていただきます。

参考文献
1)井川雅子,村岡 渡,大久保昌和,Greg Goddard.TMDを知る 改訂第2版.最新顎関節症治療の実際.東京:クインテッセンス出版,2011.

竹屋町森歯科クリニック 院長
森 昭