MAIL MAGAZINE メールマガジン

ワンランクアップの組織づくりを目指そう!【5】 インシデントから学ぶ人間力アップ!

2010年12月06日

1 人はミスを起こし得るもの

日本の医療現場で使用されているインシデントとは、重大な事故につながる可能性があるものの、実際には事故に至らなかったという潜在的な状況を意味します。

たとえば、インプラントのオペ中、アシスタントがドクターへドリルの受け渡しをする際に、ドリリングプロセスの順番を間違えて受け渡そうとしました。

その瞬間、別のスタッフがその間違いに気づき、速やかに指摘したことでアクシデントには至りませんでした。

このような事例は「ヒヤリ・ハット」とも呼ばれ、事故には至らない状態にあるものの、出来事への要因分析をしていくことで、その後の医療事故の発生予防に役立てられていることが明らかになっています。

驚くことに、1件の重大事故が生じた背景には、29件の小さな事故が存在し、300件のインシデントが潜んでいるといわれています(ハインリッヒの法則)。

このように、人はミスを起こし得るものであるということを前提に、院内独自の事故防止マニュアルを構築していくことが、患者さんにとっての安心・安全なクリニックとなり、絶大なる信頼につながるでしょう。

 

2 インシデント報告書をつくろう

では、筆者が考案した「インシデント報告書」をご紹介するとともに、記入例と解説を提示しましたので、ぜひ、クリニックで活用してみてください。

なお、この報告書は、インシデント分析に活用するばかりではなく、各スタッフが報告書への記入を通して、インシデントへの意識強化、考える力を養います。

1人ひとりのこうした習慣が、必ずクリニックの組織向上に反映していくことと考えます。

<インシデント報告書の目的を伝える>

まずは、インシデント報告書の活用にあたって、次の内容を伝え、院内で意識の統一をしましょう。

人は全能ではないこと、臨床の中でミスを起こす可能性は否定できないことを前提に、患者さんに安心・安全を提供するクリニックを目指します。

そのためには、日常の中で生じた“ヒヤリ”とした出来事を、積極的に報告書に記入することを心がけてください。

報告書を通して、アクシデントに至らないようにするためには、今後、どのようにしたらよいのかといったことを考え、意見を提出してください。

報告書は「誰が何をしたか?!」といった個人を批判することを目的にするものではありません!クリニックの安心・安全を、皆さんの力でつくり上げていくことに意義があります。

ですので、皆さんは安心して報告書に記入してください。

<報告書の記入例>

では、具体的にアクシデントに沿った報告書への記入例をご紹介しましょう。

後に各項目の解説も示しましたのでご参照ください。

▼▼
記入者    :青山めぐみ (Dr/DH/DA/DC/DT)
当院勤務年数 :3ヵ月
発生日時   :11月15日 PM5時30分

1)どのような状況で何が起こりましたか?

患者さんのカルテをDrにお渡ししました。
同姓同名の別の患者さんがいらっしゃることに気づかず、間違えてしまいました。

2)その時、どのような対応をしましたか?

Drが患者さんのお口の中を診られて、カルテの間違いを発見して指摘してくださいました。

すぐに患者さんご本人のカルテをDrに渡しました。

3)今回の原因はどのようなことが考えられますか?

勤務して3ヵ月になりますが、患者さんの情報を確実に把握していないことが原因のように思えます。

夕方の慌ただしい時間もあって、見過ごしてしまったことも原因にあげられますが、まさか同姓同名の患者さんがいらっしゃるとは思ってもみなかったので、こうした意識が事態を招いてしまったようにも思います。

4)今後、このようなことを繰り返さないためには、どのようなことをしていくことが望まれますか?

今後も、私のように途中から入ってきたスタッフに関して、おそらく同様のインシデントが起こる可能性があると考えました。

そこで、次のような「ダブル確認」のシステムを考えました。

1:同姓同名の患者さんに関しては、カルテケースにシールを貼るなどして、視覚的な注意を促す

2:シールが貼ってあるカルテの患者さんに関しては、ユニットに誘導する際に患者さんに生年月日をおうかがいして確認する。

または、こちらから生年月日をいって本人確認をする。

このように、シールと生年月日確認によるダブルチェックから、今回のような事態は避けられると考えます。

------------------------------------

<報告書各項目の解説>

<職種別と勤務年数>

記入欄にある“職種別”や“勤務年数”から、インシデントの内容も異なることが考えられ、それぞれのスキルに応じたシステム構築の際の情報として役立ちます。

2)その時、どのような対応をしましたか?

この質問によって、それぞれの無自覚的な反応、行動傾向がある程度理解できます。

院内トレーニングのパーソナルメニュー(個々のトレーニングプログラム構築)の参考となる情報が得られます

3)今回の原因はどのようなことが考えられますか?

経験を通して、自ら分析することで、あらゆる角度から問題を直視する力が身に着きます。

問題が生じた際に、それをスル―するのではなく、しっかりと「考える習慣」を身につけていくきっかけとなります。

4)今後、このようなことを繰り返さないためには、どのようなことをしていくことが望まれますか?

この質問は、自らの経験を通して「考える力」を養います。

同じミスを繰り返さないためには、どうしたらよいのだろうか?

アクシデントに発展しないためには、何をするべきなのだろうか?……といった問題意識から問題解決へのシミュレーションをします。

時には、院内ディスカッションすることも有効でしょう。

提案された意見がよいものであったら、積極的に院内システムとして取り入れていくことをおすすめします。

 

「インシデントから学ぶ人間力アップ!」いかがでしたでしょうか?

院内スタッフの1人ひとりが、毎日の臨床に少し意識を向けることで、1年後のクリニックが変わっていく……まさに、スタッフがつくり上げる安心・安全なクリニックになっていくのではないでしょうか。