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『どのように死を迎えるか』

2006年12月04日

先日のニュースで、日本社会は本格的な人口減少社会に転じていると報じられていました。一方、出生数は予測よりも多いようで、久しぶりに明るい話題だと喜んでいました。ということは死亡数はどうなのでしょう?現在、年間死亡数は約100万人だそうですが、10年後には160万人になるとの予測もあるようです。日本は人口が減りながら、たくさんの人が死ぬという社会になっていくのです。

西円山病院は900名以上の入院患者様のいる老人病院です。年間の死亡数は約160名です。この160名について調査したデータがあります。

老化や病気が進行し口から食べられなくなったときに、お腹に胃に通じる穴を開けてチューブで栄養したり、鼻からチューブを通して栄養したりする経管栄養や、点滴などの人工栄養を希望した人が約40%でした。またチューブとか点滴などの、いわば延命処置を希望しない、自然死を望まれた方は約20%で、残りの40%は急速悪化や癌のターミナルステージの方でした。これらの方々の平均生存日数を調べてみると、経管栄養の方は887±637日、経管栄養から点滴に移行した方は578±343日、点滴の方は228±257日で、自然死を望まれた方は94±100日でした。ただし点滴の方と自然死を望まれた方の平均生存日数の統計的有意差は認められませんでした。このデータでは経管栄養の延命効果が認められました。

このデータを眺めていると考えて込んでしまうこともあります。自然死より人工栄養を希望する人が2倍であるのは何故か?そういう処置が必要なときには本人は意思表示ができない状態であることが多いようです。そうなると本人が人工栄養を拒否していても、ご家族が人工栄養を希望されるようです。本人の意思を公正証書にでもしておかない限りは、家族の意向に添った処置をしなければ医者は裁判で負けるそうです。アメリカなら逆なのでしょうけれど、日本は本人のliving willではなくfamily willが優先されるケースも多いようです。僕は妻には人工栄養を拒否する旨は伝えてありますが、どうなることか...

また死亡者全体をみたときに、終末期に点滴につながれている人は52.3%でした。半分以上の方は死ぬ寸前まで口から食べるということはできなかったということです。
うちの病院のようにNST(Nutrition Support Team)もあり、管理がある程度行き届いている病院でもこのデータですから、果たして「死ぬまでくちから食べる」ことができる人はどのくらいなのでしょう?またどのような人が「死ぬまでくちから食べる」ことができるのでしょう?