2004年10月04日
本コラム連載でも一部ふれたが、最近、高齢者の栄養問題がクローズアップされている。要介護状態が進行すると共に、低タンパク質、低エネルギーという高齢者の低栄養状態に特徴的な Protein Energy Malnutrition(以下PEM)という状態の高齢者比率が増加するのである。栄養状態の一つの指標としての血清アルブミン値3.5g/dlを指標として見てみると、全国の介護療養型の施設では35%前後がPEMリスク群であるとの報告もある。
しかし、一方で一般外来受診者や健康診断施設受診者など、元気な高齢者ではその比率は数%にすぎず、それほど大きな問題ではないと考える人もいるようである。
今、本稿を読んでおられる65歳以上の高齢者に該当する読者の方も、このPEMリスク者比率や要介護高齢者の比率が、全高齢者のうち20%以下でしかないという報告を見るとホッとして、これらを他人事のように感じるであろう。しかし、これらは現時点での縦断面調査結果である。長寿であれば誰もが、徐々に高リスクとなるのである。決して他人事ではなく、若い人も含めて、全ての日本国民に関係する問題である。低栄養高齢者を作らない歯科治療のありかたや歯科的予防方法の確立、総合的な高齢者ケアの中での歯科の役割や介入の仕方を考えていかなくてはいけないと考えている。
高齢者の低栄養状態は、
・寝たきり状態に直結する、痴呆、失禁、転倒を起こすリスクの増大
・死亡率の増加
・鬱状態となりやすくなる
・感染症リスク増大
・免疫機能低下などを引き起こすことが知られている。
だからこそ適切な栄養状態を保つことが必要なのであるが、高齢者の場合は単純な栄養管理方法でうまくいかないことも多い。咀嚼嚥下機能を考慮した摂食可能な食形態、消化吸収や排泄が可能な食形態と食内容や料理法、義歯の適合、口腔の状態、姿勢保持能力、上肢機能、注意障害有無、発動性、意欲障害有無、栄養補給方法、食器、基礎代謝・・・等、要介護状態が進行するに従い、検討すべき要因がどんどんと増加する。また
・水分管理(過多で心臓負担大、過小で脱水や腎障害)
・痴呆などによる拒食、食欲低下などに対する対応
・必要十分なタンパク質量設定(廃用症候群や褥瘡防止)
・ビタミンや微量元素の十分な補給など、高齢者特有の栄養管理上の注意点に対する十分な配慮が必要となる。
当然、これらの要因を考慮した栄養ケア方法を検討するには、多くの専門家がチームとして行うこと(ビバリーメール80号コラム 参考文献2参照)が必要となる。我々もこれら全てを理解する必要はないとは思うが、患者さんを全体像として捉えるときに有益な情報ばかりである。色々な臨床場面に応用することができるものと思う。
例えば、胃ろうで自発性が低下し、口腔内が乾燥している寝たきりの患者さんの口腔ケアを依頼されたとしよう。まず、保湿した上で色々な口腔ケアグッズや薬剤を使用して大変な思いをして口腔ケアをすることになると思う。
しかし、ここで、乾燥して抵抗力の失った粘膜の治癒機転を上げるために投与タンパク質量を増加したり、口腔や体全体の免疫力をあげるためにGFOを併用したり、いわば「体の内側から口腔ケアをする」という発想が出てくると、もっともっと患者さんのQOLの向上につながり、「口腔ケア」の幅も広がるのではないだろうか。
我々は、常に口腔を通して患者さんの全身像を診て、全身の中の口腔に関わるという視点を忘れてはいけないと思っている。
【参考文献】
1)藤本篤士:特集 栄養サポートチームと高齢者ケア NST実践事例 西円山病院,月刊総合ケア(2004年10月号).14(10):50-53,2004.
2)藤本篤士:特集 臨床栄養としての在宅栄養療法 治療に栄養はもっと貢献できないか?口腔ケアを総合栄養ケア(TNC)の一環として捉えるべき,Medical Tribune-Home Care Medicine(2001年7月号).2(7):9-11,2001.