2002年11月05日
※この原稿は、2002年 10/21付・友の会「Fax Box」の「総歯研・増原レポート」に掲載されたものです。
今年8月に新発売された根管治療機器「デンタポート」が、好評で注目を集めている。
この新装置は、根管治療の問題点を解決するために、長年専念してこられた東京医科歯科大学歯髄生物学の小林千尋助教授が、モリタ製作所の協力を得て開発された画期的な新製品である。
●「デンタポート」とは何か、その特徴と性能
「デンタポート」は、既に臨床で広く活用されている電気的根管長測定装置「ルートZX」と、根管拡大形成機器「トライオートZX」を進化させて組み合わせ、高性能化した新装置である。
この「デンタポート」で最も進歩した点は、根管拡大形成に使用するハンドピースが小型軽量化(約70g )され、臼歯部の根管形成がしやすくなったことや、ハンドピースの回転数が50~800rpm の範囲でコントロールできるようになり、しかもその回転数がデジタル表示されるので、術者は常にモニターで確認しながら操作できる事である。
さらに、ファイルにかかる負荷の大きさもリアルタイムで表示される。
また、あらかじめ設定した値以上の負荷がかかると、自動的にファイルが逆回転する「オートトルク・リバース機能」の設定値も任意に変えられるので、術者は微妙なコントロールをしながらファイルが破折しないように安全な作業ができるようになった。
この「デンタポート」では、ニッケル・チタン合金のファイルの使用に限定してあるが、これはファイルが折れないようにするためであり、また安全にかつ効率よく治療を行うための次の3 つのオート機構が設定してある。
(1)オートトルク・リバース機構
(2)オートスタート&ストップ機構
(3)オートアピカル・リバース/ストップ機構
の3つである。
今回、新たな機構として「オートアピカルスローダウン機能」が装備された。
これはファイルが根尖狭窄部に近づくにつれて、モーターの回転速度が自動的に低下する機能で、根尖狭窄部近傍での作業がより安全に行えると共に、ファイルの破切防止に役立つ機能である。
開発者の小林助教授に、ファイルが折損しないように使用する方法を伺ったところ、この装置を使用する前に、抜去歯を用いて操作法に馴れておくことが大切であるとのことであった。
特にオート機構を使いこなすには、終局的に各自の手指の微妙な感覚に頼ることになるので、自分で粘り強く修練して使い馴れることが最善の道であるとのことであった。
●これからの根管治療が進むべき枠組み(パラダイム)
人々の寿命が伸びて高齢者が急増する中で、自分の歯を終末まで保持することが極めて重要になっている。
しかし、現状では根管治療は特に再治療では最も手間のかかる非能率的で労多く功少ない難渋の治療である。
この問題を解決するには、最初の根管治療を確実に実施することが第一の要件である。
この点では、「デンタポート」の開発は大きな進歩をもたらすことになった。
第二の要件は、生涯にわたって確実に封鎖できる根充の実施である。ニッケル・チタン ファイルで根管形成すると根管内の象牙質面が平滑になり、根管充填しやすくなることが認められている。
しかし、現行のガッタパーチャポイントの充填方式では、象牙質表面との密着性に乏しく、再感染する危険性がある。
そこで、これに代わって長期的に安定し、しかも柔軟な新素材の開発が要望される。
さらに、根管内象牙質と分子レベルで密着し、抗菌性が付与されれば、より理想に近い根管治療ができることになると思われる。
現行の根管治療の最重要な要件は、根尖病巣ができないようにすることであり、「デンタポート」の登場を契機として、さらに有効な根管充填システムを開発して歯科医療の責任が確実に果たせるようにしたいものである。