2002年04月01日
※この原稿は、2002年 3/20付・友の会「Fax Box」の「総歯研・増原レポート」に掲載されたものです。
●健康増進法案のねらいは何か
今国会に提出される予定の、健康増進法案は歯科医療の活性化にも極めて密接な関係があり、大いに注目、期待されるところである。
この法案には、これまでの病気の治療を目的とする健康保健制度とは別途に、全国的に国民の健康診断を実施して、病気を予防することに視点をおき、結果的に医療費の抑制をはかるねらいもある。
厚生労働省は、専門家による検査基準や書式を統一して、新年度から実施する予定で準備をしている。この健康増進法は、2000年に国が10年後の目標値を設定して健康づくりを計画した「健康日本21’」を法的に裏付けるものになる。
当時、日本歯科医師会でも「総合的な歯科保険医療対策のあり方検討会」を設置して検討を重ね、報告書を作成しており、歯科関係の保健対策の意見をまとめて提出されている。
この健康増進法では、生涯にわたる健康診断とともに「国民健康栄養調査」も実施する。これは食生活を中心に、喫煙、飲酒、運動などの生活習慣の項目を増やし、糖尿病、高コレステロール血症などの生活習慣病の実態を調査するものである。
自覚症状のない「患者予備軍」を含めた全体像を把握して病気の予防に役立てる。
●健康増進法に期待される経済的支援
この健康増進法案は、今後の歯科医療の在り方にも大きな影響がある。
特に重要な点は生涯を通じて健康診断と管理(メンテナンス)ができるようになることである。
特にムシ歯と歯周疾患のような感染性疾病の予防、早期治療には生涯を通じての予防、管理の継続が重要であるが、これまでの保険診療ではこの予防的措置が認められておらず放置されてきた。
特に学校歯科で問題になっていた10歳~19歳の受診率が低く、この年齢層で齲蝕が放置されて重症化するケースが多いことであった。
このことは、日本歯科医師会が平成11年12月に広報した「総合的な歯科保健医療対策の在り方検討会報告」にも記載されている。
この報告では、歯科保健管理を積極的に推進するには「歯科保健法(仮称)」のような法令の整備が望ましいと要望している。
ここで最も重要な問題になるのは、経済的な裏付けである。
これは中村譲治他「臨床予防プログラムの医療経済分析-はたして予防歯科は経営的に成り立つのか-」(日本歯科評論、No.651、1997)の論文でも指摘されているところである。
これまでの日本歯科医師会が提唱してきた「8020運動財団」の設立により着実に成果が得られ始めているが、これは臨床での予防措置を実施するに足りる経済的支援が伴なってきたからであると云える。
またさらに、この健康増進法案は現行の国民健康保健法とは全く別枠の経済的な裏付けのある立法であり、成立すれば齲蝕と歯周疾患の本格的な健診が生涯にわたって実施できるようになり、国民にとっては大きな福音になる。
国民の歯科受診率の向上が、歯科界の再生のプログラムに重要であることは、すでに東医歯大の川渕孝一教授(医療経済学)が指摘しておられる。
この健康増進法が成立すれば、予防歯科医療の活動が実質的になり、日本の歯科医療体制が画期的に充実したものになることは間違いない。
日本にはすでにフッ素徐放性シーラントやコーティング材のすぐれた製品があり、定期健診を確実に実行してこれを活用すれば、素晴らしい成果が挙げられるようになると考えられる。
従来の対症治療時代から、予防歯科時代への革新的な進展が始まろうとしていることに注目し、期待したいところである。