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ふたつの国際シンポジウムから齲蝕治療と歯周治療の最前線を学ぶ

2001年09月03日

※この原稿は、7/23付・友の会「Fax Box」の「総歯研 増原レポート」に掲載されたものです。
 
 
本年は、6月にふたつの国際歯科シンポジウムが東京有楽町の朝日ホール(有楽町マリオン)と、千葉・幕張の国際会議場で盛大に開催され、世界の歯科医療の第一線の動向を知る絶好の機会が与えられた。

朝日ホールにおけるクラレとモリタ共催による『セルフエッチングプライマーの信頼性』『抗菌性接着材とその臨床応用』のシンポジウムは、齲蝕治療の第一線を示したものであり内容の濃い充実したものであった。

外国の研究者が200名以上参加しており、極めて高いレベルの専門的な報告と討論が行われ、国内の学会では見られない、緊張感と充実感があった。
 
 
第1部では、今話題になっているセルフエッチングプライマーの作用、効果信頼性についての報告と討論が行われたが、結論として、セルフエッチングプライマーに使用されているリン酸基のあるモノマーが歯質の無機質と結合しており、トータルエッチングに比して健全歯質の侵襲が少ないこと、したがって、治療後の耐久性がよいことがあきらかにされた。

このことから、治療後の知覚過敏も起こり難いことがわかった。つまり、クラレのクリアフィルメガボンドが極めて合理的な成分であり、接着の持続と安定に有効なことが、ベルギーのB.ファン・メルベーク教授や東京医科歯科大学・田上順次教授により報告された。この事実は、接着法に新しい進歩をもたらしたものであり、自信をもって活用できることが判明した。
 
 
第2部では、「抗菌性接着材とその臨床応用」についての報告と討論が行なわれた。

最近の齲蝕治療では、可及的な健全歯質を削除しない方法(Minimal Intervention Dentistry)が推進されているが、歯質内に細菌が残存している場合が問題になる。

特に、最近の高齢者に多い歯根部の根面齲蝕の修復では、細菌病巣が封じ込められる可能性がある。そこで抗菌効果のある修復材料が探されている。

大阪大学歯学部の今里聡助教授は、抗菌性モノマーMDPBを配合した抗菌性接着システムの有効性について報告した。岡山大学歯学部の吉山昌宏教授は、メガボンド(クラレ)が齲蝕象牙質の細菌を封じ込める可能性のあることを突き止めた。

また、MDPBによる抗菌作用とフッ素徐放性を有するクラレの新接着システムABFの効果についても報告した。

ドイツ・ケルン大学のM.J.ノアック教授は、抗菌性バニッシュによる細菌抑制法と根面を接着剤で封鎖して耐酸性を向上する方法などを報告した。

高齢者の根面齲蝕が増加する中で、クラレのメガボンドの活用や抗菌性接着修復法の重要性が認識される時代になったのである。

5月にクインテッセンス社から「歯科用接着性レジンと新臨床の展開」が発刊され好評であるが、これにもメガボンドの使用法が解説してあるので参照していただきたい。

6月27日から30日まで、千葉・幕張の国際会議場(メッセ)でIADR(国際歯科研究学会)が開催された。日本での開催は20年振りとあって商品の展示やポスターセッションなどへの参加者が多く賑やかであった。

シンポジウムで注目されたのは、歯周病とインプラント治療の分野が接近してきて、診断用の三次元X線CTの誕生(モリタ)による診断法の進歩、組織再生法の進歩で歯周病とインプラント治療の予後、メンテナンスが向上してきたことである。

高齢者のQOLには、この課題が極めて重要であり、わが国でも積極的な臨床研究の展開が必要であることが痛感された。

20年前に大阪で開催されたIADRの学会では、日本の接着性レジンの開発がトピックスであったが、今回では、エレクトロニクス器材の普及や予防衛生分野の広がりなど、歯科領域の活動範囲が非常に広くなったことが印象づけられた。