2002年01月21日
1988年にノーベル賞を受賞したH2ブロッカーは、発売当初から画期的胃薬としての話題を集め、重症な胃・十二指腸潰瘍などの患者さんの福音となりました。
従来の治療薬は、分泌された胃酸を中和するという薬効であるのに対し、このH2ブロッカーは、胃酸の分泌を活発にするヒスタミンH2受容体と結びつきやすく、ヒスタミンがこの受容体と結合するのをブロックすることにより、胃酸の分泌を効果的に抑えるという機序で働き、医療界で広く使われるようになりました。
また、最近になって市販薬としても販売されるようになったことでも話題となりました。ご愛用の先生方も多いかもしれませんね。
しかし、とても良く効く薬のようですが、逆に効き過ぎることもあり、最近になって色々な問題が指摘されるようになってきました。
というのも、本来胃は胃酸が分泌されているので細菌などが胃に入ってきても、細菌を殺してしまったり繁殖を抑えたりしています。
ところが、この薬を飲み続けると、この胃酸の分泌そのものを抑制してしまうので、胃の中では繁殖したり生きていたりするはずのない菌が、胃の中に住み着いてしまうことがあるようです。
特にMRSAの感染症で抗生物質を使い治療していても、なかなか肺のMRSAが消えないような場合は、胃の中のMRSAが持続的に肺に入っていくことが原因のこともあるようです。
ここで、「なぜ、胃の中のMRSAが肺の中に入るの?」と、疑問に思われる方も多いでしょう。
「誤嚥」という言葉をよく耳にすると思いますが、誤嚥には大きく分けて2つの経路があります。
ひとつは口や鼻、すなわち上方から気管に異物が入るという経路があります。
そして、もうひとつは胃の内容物が食道を逆流するという、胃-食道逆流現象により、下方から気管に異物が入ってしまう経路です。
この胃-食道逆流の原因はたくさんありますが、特に高齢者の場合に多く見られるのですが、胃の中のものが逆流しないように食道を締め付けてる、食道の下の方にある食道下括約筋という筋肉が緩むために逆流しやすくなってしまうようです。
例えば食道癌などで食道を摘出してしまった場合などもこの筋肉がなくなるので、真横に寝たり、立ちながら落ちたものを拾おうとすると、胃の内容物が口の方に逆流してくることになります。
一見、関係ないと思える、胃薬とMRSAと誤嚥の、「知らなくてもいいかなぁ...?!」と思うお話でした。