2014年11月27日
前回は、人に投資して受けられる節税スキームとして「雇用促進税制」をご紹介しました。
第5回はその後編として「所得拡大促進税制」についてお話しします。
(1) 所得拡大促進税制とは?
所得拡大促進税制とは簡単にいうと、年間のスタッフの人数や給料を増やし、要件を満たした場合、その増加額の10%を税額控除できるという制度です(個人の歯科医院、資本金1億円以下の医療法人は、税額の20%が限度)。
(2) 所得拡大促進税制の3つのメリット
雇用促進税制と所得拡大促進税制は、いずれも人件費に投資すると節税になる点が共通していますが、後者のほうが「制度の受けやすさ」の点でメリットがあります。
ただし、これら2つの制度を同時に受けることはできませんのでご注意を。
いずれか有利なほうを選択してください。
所得拡大促進税制のメリットを3つご紹介しましょう。
★メリットその1:事前の届出が不要
雇用促進税制は、スタッフを2人以上増やした場合に、1人あたり40万円の税額控除が受けられる制度ですが、事前に「この制度を受けたい」という計画書を、期限までにハローワークに提出していなければなりません。
つまり、想定外に患者さんが増えて、スタッフを2人以上採用したような場合、事前に計画書を提出していなければ、 この制度を受けることができません。
一方、所得拡大促進税制は事前の届出が不要ですので、不測の事態に対応できます。
★メリットその2:事業主都合の離職者がいても受けられる
雇用促進税制を受けるための要件の1つに、「適用を受けようとする年とその前年に事業主都合の離職者がいない」というものがあります。
しかし、所得拡大促進税制にはこのような要件がありません。
事業主都合の離職が発生した場合でも適用を受けることが可能です。
★メリットその3:人数が増えなくても給与の増加だけでOK
雇用促進税制はスタッフ数の増加を要件としています。
これは多くの歯科医院にとって、一つのハードルとなります。
では、既存スタッフの昇給はどうでしょうか?
スタッフの増員は難しくても、昇給はしているという先生が多くおられると思います。
所得拡大促進税制は給与の増加を要件としていますので、多くの歯科医院にとって適用を受ける機会があるといえます。
(3) 所得拡大促進税制を受けるための3つの要件
所得拡大促進税制を受けるためには、3つの要件があり、要件1と2は「雇用者給与等支給額」により判定し、要件3は「平均給与等支給額」により判定します。
1.雇用者給与等支給額とは……
所得拡大促進税制の適用を受ける事業年度(適用年度といいます)において、スタッフに支給する給与の合計額です。
なお、このスタッフには、個人の歯科医院は奥様などの専従者、医療法人は役員を含まれませんが、雇用保険に加入していないパート・アルバイトのスタッフは含まれます。
2.平均給与等支給額とは……
適用年度において継続雇用者(適用年及びその前年に給与の支給を受けたスタッフ)に支給した1人当たり・1ヵ月当たりの平均単価です(※継続雇用者には雇用者給与等支給額と同様、専従者と役員は含まれません)。
簡単にいうと、全体的な給与合計額と1人当たり・1ヵ月の平均給与の2つをチェックする必要があるということです。
なお、平成30年3月末までに開始する事業年度まで継続する制度ですが、今年利用できなくても来年利用できる可能性がありますので、毎年チェックしてみてください。
では、要件を具体的に見ていきましょう。
★要件1:「適用年度」の雇用者給与等支給額が、「基準事業年度」の雇用者給与等支給額と比較して一定割合以上、増加していること。
基準事業年度は、適用年度によって変わらず、個人の歯科医院であれば平成25年3月決算法人であれば、平成24年4月~平成25年3月となります。
一方、増加すべき割合は適用年度によって変わります。平成27年の場合は3%です。
この要件と他の要件を満たしている場合、雇用者等支給額の増加額の10%が控除される税額になります。
たとえば、基準事業年度の支給額が1,000万円、常勤スタッフが1名増えて、適用年度の支給額が1,300万円となった場合、300万円増加していますから、増加割合30%として要件1を満たし、他の要件も満たせば、増加額の10%である30万円が納税額から控除されます。
★要件2:「適用年度」の雇用者等支給額が、「前年」の雇用者等支給額を上回っていること。
要件1と合わせると、雇用者等支給額を基準事業年度から適用年度まで、徐々に増加させていくことが求められているといえます。
★要件3: 適用年度の平均給与等支給額が前事業年度の平均給与等支給額を上回っていること。
この要件では、1人当たり・1ヵ月の平均給与を計算して、特定のスタッフや特定の月にかたよりなく給与が増加していることを確認します。
この方法では、適用年度に新卒のスタッフを新たに採用した場合、平均給与が下がり、要件を満さなくなることが指摘されていました。
しかし、平成26年の改正で、判定の対象となるスタッフが、適用年度と前事業年度に給与の支給を受けた「継続雇用者」に限定され、この問題が解消されました。
ここまで3つの要件をご説明しましたが、専門家の私ですら「ややこしいな~」と思います。
ですので、先生は概要だけ理解いただき、最終的には顧問税理士さんに「うちって所得拡大促進税制受けられるの?」と一言いうだけでOKです。
詳細は、「経済産業省 所得拡大促進税制」をご参照ください↓
http://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/syotokukakudaisokushin/syotokukakudai.htm
給与の増加を検討中の先生は、今回の内容をご参考にしてみてください。
人への投資は、歯科医院経営にとってもっとも重要なテーマです。
適切な人的投資は医院を加速度的に発展させてくれるでしょう。
税理士法人キャスダック
代表税理士 山下剛史
⇒ http://www.dentalkaikei.com