2014年11月14日
(1) 人材に大きく投資すると受けられる2つの節税スキーム
前回は、歯科医院の経営分析においてもっとも重要な指標は「人件費」であることをお伝えしました。
医院にお金を残すためには、人件費率を適切な基準値に保つことが必要です。
しかし、医院を発展させるためには、いったん基準値の枠を外し、先行投資として人件費を増やすべきというのも事実です。
実は、この先行投資の戦略を考えている先生にとって、現在、追い風ともいうべき制度を国が用意してくれています。
それは「雇用促進税制」と「所得拡大税制」という2つの制度です。今回は、このうち、「雇用促進税制」についてお話します。
(2)「雇用促進税制」とはどんなもの?
「雇用促進税制」とは、簡単にいうと、雇用保険の被保険者となるスタッフを2人以上増やした場合に、1人につき40万円の税金の控除を受けられる制度です。
スタッフ1人につき40万円として、2人以上増やす必要がありますので、控除は最低でも80万円(40万円×2人=80万円)となります。
もう1人採用して、合計3人増えた場合は、120万円の控除となります。
増やさないといけないスタッフは、雇用保険の被保険者であればOKですので、正社員であるかパートであるかは問いません。
なお、この税額控除を受けるためには、2人以上という条件に加えて、「雇用増加割合」が10%以上という条件があります。
たとえば、雇用保険の被保険者となっているスタッフの数が30人の歯科医院であれば、10%以上雇用が増えないといけないので、2人ではなく、30人×10%=3人以上増やすということになります。
つまり、雇用保険の被保険者のスタッフ数が20人以上の規模の大きい歯科医院の場合には、最低増やさないといけない人員は2人以上ということです。
ちなみに、この場合のスタッフ2人以上というのは、「純増」2人以上になりますので、たとえば、期間中に2人退職したら、4人増やす必要があります。
この制度は、住宅ローン控除などと同様に、税額を直接減らす「税額控除」ですので、金額が大きくなると、かなりメリットが出てきます。
ただ、控除できる税額には、一定の上限が定められています。
個人の歯科医院、資本金1億円以下の医療法人は、法人税の20%が限度となります。
たとえば、所得税が300万円の先生は、その20%相当額である60万円が限度となります。
このように、税額によっては全額控除できない可能性がありますのでご注意ください。
(3) 雇用促進税制の最大のポイントは手続きの流れ
雇用促進税制には、上記のように細かい注意点がいくつかありますが、最大のポイントとなるのは「手続きの流れ」です。
手続きの流れは、大きく4つに分けることができます。
では、順番に見ていきましょう。
◆ステップ1
事業年度開始2ヵ月以内に、ハローワークに採用計画を記載した「雇用促進計画」を提出します。
個人事業の場合は、1月1日に事業年度が開始しますので、2月28日までに提出してください。
提出すると、書類にハローワークの受付印が押され返却されますので、それを年度末まで保管しておきます。
◆ステップ2
適用を受ける期間中に、計画にもとづいてスタッフを雇用します。
ハローワーク以外からの雇用でも1名にカウントされますが、採用するスタッフは雇用保険の被保険者でなければなりません。
◆ステップ3
事業年度終了後、ステップ1にて返却を受けた書類に達成状況を追記し、それを再度ハローワークに提出をします。
個人事業の場合は、確定申告期限である3月15日までに、法人の場合は、事業年度終了後2ヵ月以内に提出してください。
この書類は、ステップ4にて申告書に添付する必要があるのですが、ハローワークに提出した書類は、返送までに2週間くらいかかることがあるので、余裕を見て提出をしましょう。
なお、このタイミングで、次の期の雇用促進税制を受けるのであれば、次の期間のステップ1の雇用促進計画を提出しておくのもよいでしょう。
◆ステップ4
ハローワークより返送された雇用促進計画の写しを確定申告書に添付することで、税額控除を受けることができます。
この4つの手続きの中で、もっとも注意すべきは「ステップ1」です。
事業年度の途中で、たとえ2人増えようが3人増えようが事前に計画を提出し、増員する旨の意思表示をしていなければ、控除を受けることができないからです。
ですから「2人以上増える可能性が1%でもあるのなら、計画書をハローワークに提出しておけ」ということになります。
ちなみに、計画を提出したとしても、要件を満たさなければ、控除を受けられないというだけで、デメリットはありませんのでご安心ください。
書類の作成もそれほど難しいものではありませんので、30分もあれば十分に記入できるでしょう。
ステップ1で提出した後、次にハローワークで手続するのは約1年後になりますので、忘れないようにすることが肝心です。
なお、これら以外にも「青色申告を行っていること」「適用事業年度と前事業年度において、事業主都合の離職者がないこと」など、一定の要件があります。
詳細は、こちらです。 ↓
「厚生労働省 雇用促進税制」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/dl/koyousokushinzei_02_pamp.pdf
この雇用促進税制の適用年度は、現在のところ、平成28年3月31日までの期間内に始まる事業年度分で最後になる予定です(個人事業の歯科医院の場合は、平成28年の申告分で終了)。
ぜひ、人を雇って医院を大きく成長させたいという先生は、この制度を活用してみてください。
次回は、同じく人に投資した時に受けられるもう1つの節税スキーム「所得拡大促進税制」についてお話しします。
税理士法人キャスダック
代表税理士 山下剛史
⇒ http://www.dentalkaikei.com