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う蝕治療と修復処置 ~接着が教えてくれた最も大切なこと~(8) 【修復処置続き】

2003年11月04日

疾病の部分が治ったら、歯科医師の医師としての仕事は終わりです。

「何をバカなことを言っているのだ、まだ窩洞には何も詰めていないではないか」とおっしゃる先生方が多いかもしれません。

でも、象牙質表面に人工エナメル質が生成できれば、後に残された「穴」の部分は障害として理解されますから、この穴を埋めるかどうかは、ひとえに患者さんの選択権の範疇にあります。

またまた例えが悪いかもしれませんが、切断された指が治癒した後に、人工指をつけるかどうかは患者さんが選択すべき問題と同じです。

もちろん、できた穴を放置することは機能の低下を招き、前歯部であったら審美性に問題を生じるでしょう。

そういった1次的障害に、さらには対合歯が廷出したり、隣接歯が寄って歯列に乱れを生じ、う蝕の再発や、歯周病を惹起するなどの2次的障害、さらには顎関節に異常を来たすなどの3次的障害も考えられるでしょう。

そういうことを看過すべきではないとおっしゃる先生も多くいらっしゃるでしょう。

それらすべて承知の上で、それでも選択権は患者にあるといいたいのです。

患者さん、にこれを放置すると起こりうる障害について告知(インフォーム)する義務はありますが、少なくとも医者側の論理だけで進める問題ではないと考えています。

それはともかく、患者さんが、ここを何かで修復することを望んだ場合、これを施すのも歯科医師の仕事のひとつです。

修復士、あるいはリハビリテーション医としての仕事です。

歯科医師の特殊性は、既に外科医では他の職種に譲ってしまっているリハビリテーションの部分を併せて行っている事実かもしれません。むしろ、今まではこちらの修復する部分ばかりが強調され続けたが為に、歯科医師は医師なのかなどという余計な詮索をさせてしまったのでしょう。

自分達で招いてしまったことなのですね。

そこで、この穴を修復するのには、直接法と間接法の2つがあるのは承知の通りです。

どちらを選択するにせよ、もうこれ以上削ることなく修復すべきであるというのが基本的な考えです。

治ったばかりの指に穴を開けて人工指を入れるなんて考えられませんよね。

直接法の場合、最近ではほとんどコンポジットレジン修復が選択されます(くどいようですけれど選択するのは患者さんです)。

もう既に、象牙質の上には人工エナメル質を生成したときのボンディング剤が塗布されていますから、コンポジットレジンをそのまま充填することができます。

さらに、確実に充填したいのなら、露出しているエナメル質に対してエッチングすることもできるでしょう。

よく、エナメル質と象牙質が混在した窩洞(私は穴と理解しています)で、エッチングをどうするかという質問を受けますが、傷口である象牙質を最初に封鎖しておけば、後はエナメル質しか出ていませんから、そこはエナメル質用のエッチングをすればよいのです。

私の方法では、何も迷うことはありません。

次に間接法ですが、これにはもう少しだけ工夫が要ります。

というのは、ボンディング剤で生成した人工エナメル質は非常に薄いので、時として間接法の作業で削り取られてしまう恐れがあるからです。

そこで、私はこの上にコーティング材(SBコート、サンメディカル社)やフロアブルレジンを流して硬い皮膜を作ります。

こうすれば、後からの処置に対しても安心です。

生成した人工エナメル質に対してはほとんど何もしませんが、エナメル質の部分にベベルをつけるように一層削除します。

そうすることによって、修復物が歯に確実に結合されるからです。

修復される穴はう蝕を除去しただけで、その他はほとんど削除されませんから、いわゆる維持形態だの抵抗形態だのが全くない皿状の修復物が出来上がります。

従って、これを歯に結合させるには、今度は接着性レジンセメントが必要となります。

これで、う蝕治療と修復処置が終了いたします。う蝕はう蝕の治療を行って治癒を待つ、そして残された穴に修復処置を施す。

いずれにしてもう蝕治療と修復処置とは次元の違うものであると理解して下さい。

それは疾病と障害が全く次元が違うからです。