2003年08月04日
それでは、150年~200年前から行われたと考えられる、保存修復の成果はどのようなものだったのでしょうか。
残念ながら、あまり芳しい成果だったとはいえません。
一度治したところから,再びう蝕が発生し、修復をやり直さなければならないことが多々ありました。そして、次から次へと大きな修復となり、時には歯髄を取ることもあります。
歯髄を取れば支台築造、クラウンによる修復となってしまうことは、よくご存知のことでしょう。
そうです、う蝕は他の疾患と違って「治らない病気」なのです。だからこそう蝕にならないようにする、つまり予防が極めて重要な意味を持つのです。
森田 学先生(当時岡山大学、現在北海道大学教授)らが、修復物の耐用年数について調査した、有名な報告があります(図1)。
左から、耐用年数が長かったものから順に載せていますが、古くてもうやることはないであろうと思われているバンド冠が、この中では最も耐用年数が長いというのはちょっとショックでした。
そして、私達が行っている修復物のすべてを平均すると、6.9年でやり直さなくてはならないと言う結果です。
また、私どもの診療所と東京にある歯科医院とで行った「一般診療における脱落・二次う蝕の発生率」という調査も、興味深いものでした。
すなわち、1,020名の新規外来患者の主訴を見ますと,その42%が脱落,あるいは二次う蝕であり、私達の口腔内診査を加えると実に71%の方がこういうトラブルに悩まされていることが分かりました。
成人の病気としては看過できないものと思われませんか?(図2)。
「う蝕は削って詰めれば治る」、こういう考えが私自身も含めて、多くの歯科医師の頭の中に描かれていました。
大学でもそう習い、私自身は大学の教官として、学生達にいつもそのように教えていました。
だからこそ、咬合面の小さな着色でも見つけようものなら、必ずそこをしっかり削り、アマルガムやインレーを充填していました。
だって、それは患者さんのためだと信じていたからですよね。
しかし、臨床を何十年もやっていますと、自分がきちんと直したはずなのに、そこが再びう蝕になることをそれこそ数限りなく経験しました。
どこが悪かったのだろう、形成か?印象か?それとも鋳造? 日夜反省の連続でした。
やがて、もしかして「う蝕は削って詰めても治らない」のではないかと、疑問を持つようになったのです。
他の組織は血が出て固まり、その下に上皮が出来て治るのに、歯からは血も出ないし・・・再生する能力もないし。