2003年10月06日
ビバリーメール第56号(8/18配信号)に、【う蝕は疾病か、あるいは障害か?】というタイトルで、う蝕とは疾病から障害へと進んでいく、あるいは障害を伴いつつ進行する疾患として理解することができると述べました。
したがって、う蝕に対する処置も同様に、疾病に対するう蝕治療と、障害に対するリハビリテーションとを別のものとして取り扱うことを基本概念としています。
ですから、う蝕で来院した患者さんを見て、いきなりインレーにしようとかレジン充填を行おうと修復することを最初に考えるのは間違いだと思っています。
修復は、病気が治った後に考えることではないでしょうか。
例えが悪いかもしれませんが、指が切断されてだらだらと血が出ている状況で、人工指のことを考える人はいませんよね。それと同じです。
そこで、最初にう蝕治療を考えてみましょう。これには2段階ありますが、う蝕は細菌の感染症と考えてよいですから、まずは細菌を取り除いて出来るだけ無菌の状態にする必要があります。
そこで第1段階は感染歯質の除去と無菌化です。
その前に、どこまでが感染歯質でどこからが健全歯質であるかを見極めなくてはなりません。
歯質の色や硬さを頼りにしていた時期もありますが、いまではう蝕検知液を使用するのが賢明でしょう。
もっとも、保険点数から除外されてからはほとんど使う人がいなくなっているのはとても残念なことです。
そして、赤く染まったところだけを、ヘッドの小さなスプーンエキスカを用いて除去します。
この時には麻酔をすることはほとんどありません。
それは、感染歯質を除去するときには患者さんは痛みを感じないからです。
回転切削器具を用いるのはエナメル質を削って入り口を広げるときだけです。
この操作を何回か繰り返し、感染歯質を取り除きますが、う蝕検知液で淡いピンク色に染まった部分は再石灰化が可能な部分として、削除することはありません。
ただ、あまりに歯髄に近いために、これ以上削除すると露髄をしてしまいそうだという時には、ここに3種抗菌剤を入れて無菌化を図ることがあります。
何とか歯髄を残すことが出来たらという一心からですけれど。
身体の他の部位の傷は、この後、つまり免疫力が働いて無菌化が達成できれば、後はこの部分が瘢痕治癒して、やがて上皮が再生されて完全な「治癒」となります。
でも、血管もなく再生能力のない象牙質では、う蝕治療の第2段階として術者が積極的に上皮、すなわちエナメル質を作ってあげなくてはなりません。
それが、前回お話した「樹脂含浸層=人工エナメル質」です。
方法はそんなに難しいものではありません。
日常、コンポジットレジン修復を行うときに使用するボンディング剤を、象牙質面に塗布するだけです。
ボンディング剤は、象牙質との接着に評価の高いもの、樹脂含浸層を確実に生成するものを選択してください。
ボンディング剤が象牙質の中に浸透して、象牙質の構成成分と一体化して硬化します。
樹脂含浸層が出来ることによって、人工エナメル質が誕生し、他の部分と同様に上皮の再生に近い治癒像が得られます。
もちろん、完全な治癒ということは出来ませんので、中林先生と私はこれを「擬似治癒」と呼んでいます。
これで、う蝕の疾病としての部分の治療が終了します。
この後の処置に関しては次回に説明いたします。