2003年09月01日
話が、少しわき道にそれてしまいましたが、本題に戻しましょう。
う蝕が疾病であれ障害であれ、う蝕によって作られた「穴」に対して、私達が施す修復物の寿命には限りがあり、決して「永久修復物」とはいえないことはご理解頂けることと思います。
つまり「う蝕は治らない」のです。
ところで、修復物の脱落や二次う蝕の調査をしていますと、問題を生じている支台歯の多くが、う蝕や切削が象牙質にまで及んでいる場合であることに気がつきます。
皆様もそう感じませんか?
その一方で、古くから口腔内に装着されていたと思われるバンド冠を、審美性の問題やマージンの不適合によってはずしてみると、ものすごくきれいなエナメル質が現れ、場合によってはリン酸セメントもそのまま残っていることもあります。
これも臨床経験が豊富な先生ですと、すでに気がついていらっしゃることと思います。
リン酸セメントは口腔内で溶けて困るなんて本当? と思うくらいしっかりと残っています。
また、鋳造歯冠修復歯の二次う蝕について調査した、北海道大学の山口泰彦先生の貴重な研究成果があります。
それは、鋳造歯冠修復物のマージンをエナメル質に設定したときと、象牙質まで切削が及び、そこにマージンが来たときに、どちらがより多く二次う蝕になっているかというものです。
そこでは、エナメル質マージンにおける二次う蝕の発生率を1としたときに、象牙質のマージンでは実にその4倍の頻度で発生していることがわかりました。
う蝕の深さに関しても、象牙質マージンの方がエナメル質マージンよりも深く進行していることもわかりました。
歯の延命にとって、エナメル質は本当に大切なんですね。まさに生活している歯にとっては最良の防御壁になっているのでしょう。
ですから私達は患者さんと共に、エナメル質を守り、残す努力を行っていく必要があります。
私はここ30年、多かれ少なかれ接着に関わってきていますが、その中でもっとも大切なこととの一つだといえます。
「そんなことお前にいわれなくてもわかっている。問題は既にエナメル質を失ってしまった歯をどうするかだ」という声が、皆様の中から聞こえてきそうです。
確かに、歯科医院にう蝕で訪れる患者さんの多くは、既に部分的にエナメル質がなくなっている方達です。
ですから、失ったエナメル質をいかに回復するか、エナメル質に替わり得る機能をいかに与えるかが次のテーマとなりました。
私は、中林宣男先生(東京医科歯科大学名誉教授)と共に「超接着-人工エナメル質をめざして」という論文を1995年に発表しましたが、実はここにも接着が大きく貢献してくれることが分かりました。