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う蝕治療と修復処置 ~接着が教えてくれた最も大切なこと~(4) 【う蝕は疾病か,あるいは障害か?】

2003年08月18日

繰り返しますが、う蝕は治らない疾患として捉えた方がよいのです。そうすれば患者さんは二度とう蝕にならないように予防管理に励むでしょうし、私達歯科医療関係者にとっても、やり方が悪いだの、へぼだのなんて言われなくてもすみますので、とても楽になると思います。

だからといって、適当にやってよいという話ではなく、再発予防に向けて全力を尽くさなくてはいけないのは言うまでもありません。

ところで、私達が対象としているう蝕というのは疾病なのでしょうか、それとも障害に属するものなのでしょうか?

そんなこと考えたことありませんか?

普通、疾病とは、症状がなお非固定的で治療可能なもの、また、障害とは症状が固定的で、治療不可能なものと定義されています。

このことを頭に入れて,象牙質まで達したう蝕を考えてみましょう。

う蝕原因菌がう窩に存在して、酸を発生し脱灰が進行している状態、これは症状がなお非固定的で、治療可能なものとして疾病として扱ってもよいと思います。

しかしその後、感染歯質が除去、あるいは無菌化された後の歯質の実質欠損、これらは治療不可能な障害として捉えた方がよいのではと考えています。

つまり、う蝕とは疾病から障害へと進んでいく、あるいは障害を伴いつつ進行する疾患として理解することができます。

凍傷なんかに近いイメージです。

何で、そんなことにこだわるかと言いますと、医科では疾病と障害に対する処置の仕方、あるいは考え方を変えた方がよい結果を生むことが知られているからです。

疾病に対しては、「医療モデル」で、患者さんの生理的な正常状態の維持に努めます。

この段階では、科学的な処置で病気を治癒にもっていかなくてはなりません。

一方、障害に対しては、「生活(QOL)モデル」で対処した方がよいと考えられています。

障害によって機能が低下し、ハンディキャップを負っているわけですから、その人の生活の質の向上を第一に考えて、社会復帰の手伝いをするという考えです。

別な言い方をすると、疾病に対しては医者が中心になって、あらゆる知識を駆使して治癒に導くことに、全力を挙げなくてなりません。

歯科医師の、医師の部分が強く発揮されるところだと思います。

ところが障害に対しては、その中心は患者さんにあります。

障害を回復するかどうかは、患者さんに選択権があります。私達はあくまでも、そのお手伝いをするという態度が必要でしょう。

今までの歯科医療を見ると、その辺があいまいで、本来医者として積極的に関わらなくてはならないところで躊躇したり、逆に患者に選択権があるはずなのに、自分の考える処置を、強引に押し付けたりしていた感じがします。

「疾病に対しては医者として積極的に! 障害に対しては患者の意思を尊重して謙虚に!」

この気持ちが「Minimal Intervention」につながるのではないでしょうか。