2003年07月22日
人類は、いつ頃から、う蝕に悩まされるようになったのでしょうか?
ものの本によると、20万年前の化石に、既にう蝕の跡が発見されています。
でも、この頃のう蝕は、現代人に見られるミュータンスレンサ球菌によるものとは異なり、口腔内常在菌によるもので、歯周疾患に続いて起こったと見られています。
もちろんこれは、人類が二足歩行を獲得し、手が自由に使えるようになり火を発明したからに他ありません。
これで調理をすることを覚え、軟らかくして食べていたのでしょう。
日本でも、定住生活を始めた弥生時代に、う蝕が増え始めたことが知られていますが、それは定住生活で、食物に偏りができたのでないかと考えられています。
その後、飢饉で食物が十分に無いときにはう蝕が減り、豊作だとう蝕が増えたといわれていますから、戦国時代真只中の人類には、ほとんどう蝕がありません。
徳川二代将軍の秀忠(家康の息子)の顎骨には、全くう蝕が認められません。
イギリスのアングロサクソン時代からの、う蝕の推移を研究したものでは、17世紀後半から、急激にう蝕が増加したことが知られ、これはまさに西インド諸島から精製された砂糖が、大量に輸入されたからだといわれています。
そろそろこの頃から、現代につながるミュータンスレンサ球菌によるう蝕が蔓延して行ったようですね。
さて、このようにう蝕そのものは20万年前からあったようですが、それに対する治療はどのように行われていたのでしょうか?
まあ、最初はほとんど何もされていません。つまり放置ですね。
その後は、せいぜい痛くて仕方のない歯を抜いてしまう、抜歯ですね。これが行われていたことが報告されています。
放置と抜歯、これだけで通用していたのは、人類が今のように長生きすることがなかったからでしょう。つまり、う蝕で悩むまもなく、人生に終わりを告げていたということになるのでしょうか。
今のように、う蝕を治療して保存修復するという技術は、意外と最近で、私はたかだか150年から200年前に過ぎないと思っています。
歯の治療の起源として、エトルリア(紀元前700年位、今のフィレンツェ付近に栄えた国)の墓から発掘された、前歯のブリッジという人がいますが、私に言わせれば、それはただ単に飾りに過ぎなかったのでは?という見方をしています。
もっとも、補綴修復の目的の一つに審美性の修復がありますから,歯科治療といえないこともありませんが。
まあ、歯科医学の父といわれているピエール・フォシャールの時代まで遡ったとしても250年前がいいところでしょう。
ピエール・フォシャールは、貴族の限られた人にしか治療を行っていませんから、やはりう蝕治療と保存修復が一般化したのは、つい最近(?) と言ってもいいくらいです。