2014年04月18日
「患者さんに敬語を使わなければいけないんですか?」
「接遇研修」の講師として病院に招かれた際、看護師さんから何度かこの質問を受けました。
研修の依頼主は、看護師長さんだったり、事務長さんだったり、指導的な立場の方ですので、職員に敬語を身につけさせたいと、私に研修を依頼しています。
一方、研修を受ける看護師さんの中には、患者さんに対して敬語を使うことに違和感を覚える方もいるようです。
組織に属している以上、組織から求められる言葉づかいをすることは当たり前のことですが、私はこのように答えています。
「あなた自身のために敬語を使ってください。
敬語の使用は、あなたを守ることになります」
「敬語があなたを守る」と聞いて驚く方が多いのですが、敬語には使い手を守る働きもあります。
敬語の働きはたくさんありますが、本連載の第1回は、今までお伝えしてこなかった特別な働きについてお伝えします。
その特別な働きとは、次の3点です。
1.患者さんのプライドに配慮する働き
2.患者さんを安心させる働き
3.患者さんに節度ある言動をさせる働き
3点を順番に解説していきましょう。
1.の患者さんのプライドに配慮する働き……
患者さんは治療を受けている間は、「患者」として振る舞い、外見的には従順な子どものように振る舞いますが、それぞれプライドを持っています。
敬語の使用は、そのプライドに配慮することになり、その配慮が歯科医院経営にも影響を及ぼします。
具体例をあげてみましょう。
初来院の患者さんに対して、A歯科医院では、
「ちょっと、待っててくださいねぇ?」と声をかけました。
B歯科医院では、
「恐れ入ります。3分ほどお待ちいただけますか」と声をかけました。
患者さんのプライドに配慮しているかいないかの違いを、患者さんはしっかり感じ取りました。
その結果、プライドが高い患者さんはB、歯科医院を選ぶことになったのです。
2.の患者さんを安心させる働き……
敬語は、患者さんを安心させる働きがあります。
敬語が使えるということは、一定レベルの教養があり、院内教育を受けた人であることを伝えます。
逆にいうと、敬語が使えない=教養がない、敬語が使えない=院内教育を受けていない、という連想が働いてしまうのです。
自分の大切な口の健康管理を任せるのですから、教養があり、院内教育をしっかり受けている、歯科医院のみなさんにお世話になりたいと思うのが人情です。
3.の患者さんに節度ある言動をさせる働き……
患者さんの中には、お行儀のよくない患者さんもいます。
そういう患者さんに対しては、医療者側も敬意の足りない対応をしてしまい、悪循環に陥ることがあります。
人は「扱われたように振舞う」という傾向があります。
大事な人であるという認識の下で接してくれれば、医療者を困らせる行為は減っていきますし、迷惑な嫌な人であるという認識の下で接してくれば、ますます迷惑で嫌な部分を見せたくなるのです。
NHK学園の通信敬語講座で学んでいる医療関係者のレポートからも、お行儀の悪い患者さんであっても、大切な人として接触していけば、患者さんは変わっていくことがわかっています。
患者さんに節度ある言動を求めるなら、敬語を感じよく使い、「大切な人ですよ。大切な人として接しますよ」という思いを言葉に乗せて伝えることです。
NHK学園専任講師
山岸 弘子