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歯の健康と健康長寿【4】歯の健康と要介護

2018年08月17日

現在、日本は世界でもトップクラスの長寿国である。

世界保健機関(WHO)が2016年に発表した「2015年における世界の平均寿命トップ10」では、日本人の男性が第6位、女性は第1位であった。

一方、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことを「健康寿命」といい、2013年の推計で男性が71.2年、女性が74.2年であった。
健康寿命と平均寿命の差「健康上の問題で日常生活が制限される期間」は、男性では9.0年、女性では12.4年となっている。
この約10年間のギャップをいかに短くしていくかが日本の大きな課題となっている。

健康寿命を短くしている大きな原因が要介護状態である。
要介護(要支援)認定者数は経年的に増加し、介護保険事業状況報告によると2018年4月末現在、約644万人(男性:約202万人、女性:約442万人)であり、65歳以上に占める割合は約18%となっている。

要介護状態を防いで健康寿命を延ばすために歯科からできることはないのか。
すでに1990年代から、口腔と全身の健康状態の関係がさまざまな調査研究で報告されるようになった。
特に歯周炎について多くの研究成果が発表され、歯周炎が糖尿病患者の血糖コントロールに影響することや、心筋梗塞、脳卒中そして低体重児出産のリスクを高めることが示唆されている。
また、歯数が少ない者ほど寿命が短いことも報告されている。
そして近年、口腔の健康状態がその後の認知症発症や骨折・転倒に影響する可能性が報告され、本シリーズの第1回と第2回で紹介した。

一般に、要介護状態の者は自立して生活している者よりも口腔内状態が良くないことは以前から知られていた。
その多くの理由は、要介護状態になるとブラッシングなど自分で口腔の手入れができなくなるために歯垢がたまり、やがて歯周病やう蝕になり、ついには歯を失ってしまうのではないかと考えられていた。
もちろんその経路は存在するが、近年の研究で注目されているのは、口腔の健康状態が要介護状態のリスクを高めるという経路の存在である。

われわれは、本シリーズの1回目で紹介したのと同じ対象者4,425名(日常生活自立度が全自立の65歳以上の者)を対象として、歯数と4年間の追跡調査中の要介護認定の関係を、Cox比例ハザードモデルで検討した。
その結果、性、年齢、BMI、主観的健康感、治療中の疾患の有無、喫煙歴、飲酒歴、運動習慣、所得の影響を取り除いても、19歯以下の者は20歯以上の者に比較して、要介護状態になるリスクが1.21倍(95%信頼区間:1.06~1.40)高くなることが示された(図1)。

なお、この研究では、本シリーズの第1回と第2回の認知症や転倒とは異なり、義歯の使用の有無にかかわらず、歯数がその後の要介護状態に影響することが示唆された。

国民生活基礎調査における「介護が必要となった主な原因の構成割合」を図2に示した。

第1位は認知症で全体18.0%を占め、次いで脳血管疾患が16.6%、そして高齢による衰弱の13.3%と続いている。
これらの主な原因の中で口腔の健康との関連が予想される要介護の原因の割合(認知症、脳血管疾患、骨折・転倒、心疾患、糖尿病、呼吸器疾患)を合計すると、約56%となる。

つまり、要介護になる原因の半分以上は口腔の健康状態と関連する可能性があるほど、歯科口腔保健は介護予防の重要なポイントとなることが明らかになってきた。

神奈川歯科大学大学院歯学研究科
口腔科学講座(社会歯科学分野)教授
山本 龍生