2018年08月31日
日本では高齢化の進展、疾病構造の変化、医療の高度化などによって国民医療費が増加の一途をたどっており、2015年度は約42兆円、前年度に比べて1.6兆円(3.8%)の伸びとなっている。
日本の医療保険制度は現役世代が支え手であるが、その世代が減少するなかで、制度を維持していくために、医療費の抑制が重要かつ喫緊の課題となっている。特に、成人期から高齢期における循環器疾患をはじめとした慢性疾患にかかる医療費は国民医療費に占める割合が高く、それらの疾患への対策が急務となっている。
近年、歯や口の健康状態が全身の健康状態に影響するという研究報告が、国内外で多くなされている。
歯数が少ない者ほど、寿命が長く、要介護、認知症、転倒・骨折、糖尿病、虚血性心疾患などの疾病に罹患するリスクが高いことが、追跡調査で明らかになっている。
また、いくつかの都道府県(兵庫県、茨城県、北海道、山梨県、長野県)からは、国民健康保険のレセプトデータを用いた研究において、歯数の少ない者ほど医科医療費が高いことが報告されている。
日本では、2008年から施行されている「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、医療費適正化計画の作成、実施および評価のための調査や分析などに用いるデータベースとして、レセプト情報および特定健診・特定保健指導情報を格納している。
医療費適正化計画に関する調査や分析以外にも、医療サービスの質の向上を目指し、エビデンスに基づいた施策を推進するために活用すべく、2010年から学術研究に対する活用が試行的に開始された。
このような背景のもと、われわれは歯科の分野では初めて、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、歯数と医科医療費との関係を検討した。
その目的は、いくつかの都道府県でみられた、歯数と医科医療費の関係が、NDBという日本全国のリアルワールドデータでも確認できるのかどうかを検証するためである。
方法としては、NDBから抽出された、2013年4月診療分の歯周炎病名をもつ40歳以上のレセプトのうち医科のレセプトと突合できた2,231,983名(男性936,652名、女性1,295,331名)分のデータを用いて、歯周炎病名の歯式情報から計算した歯数と医科医療費との関係を検討した。
図1には性および年齢階級別に、歯周炎病名から計算した歯数が19本以下の者と20本以上の者における医科医療費(中央値)の比較の結果を示した。
男女とも40~79歳において、19歯以下の者は20歯以上の者に比べて、医科医療費が有意(Mann-WhitneyのU 検定、p<0.001)に高かった。
特に、比較的医科医療費の少ない40歳代や50歳代において、19歯以下の者と20歯以上の者との間の差が明らかであった。
歯数を1本単位として50歳代(対象者:327,689名)、60歳代(610,087名)、70歳代(654,410名)に分けて、歯数ごとの医科医療費の中央値をグラフ化し、図2に示した。
どの年代においても歯数が少ない者ほど医科医療費が高く、その関係は直線的であり、その傾きは低い年代の方が急である傾向にあった。
これらの結果から、NDBのリアルワールドデータにおいても、歯を多く有する者ほど医科医療費が少ないことが確認された。
これらのデータは、横断データであるために、因果関係は不明であるが、歯数が少ない者ほどさまざまな全身疾患の治療を受け、医療費が多くなっていると思われる。今後は、歯科受診によって歯数の維持や咬合の改善がなされ、その結果としての医療費削減がみられるかどうかといった研究が期待される。
神奈川歯科大学大学院歯学研究科
口腔科学講座(社会歯科学分野)教授
山本 龍生