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歯の健康と健康長寿【2】歯の健康と転倒

2018年07月17日

高齢者の約3人に1人が転倒を経験している。

また、転倒・骨折は、要介護となる主な原因の約12%を占めており、健康寿命延伸にとって重要な問題である。
転倒のリスク因子には、高齢、過去の転倒経験、リウマチなどの疾患、抑うつ、筋力やバランス機能の低下などがある。

われわれは、高齢者の追跡調査を行い、歯数や義歯の使用状況と転倒との関連を検討した。
対象者は、日常生活動作が全自立で過去1年間に転倒経験がない65歳以上の1,763名(男性910名、女性853名)とした。
歯数と義歯の使用状況を質問紙で調べ、3年後に過去1年間の複数回転倒経験の有無を調査・分析した。
その結果、20歯以上の者と比較して、19歯以下で義歯未使用の者は、性、年齢、追跡期間中の要介護認定、抑うつ、主観的健康観、教育歴の影響を考慮しても、転倒リスク(オッズ比)が2.50倍高いことが明らかになった(図1)。

また、19歯以下であっても義歯を使用している者の転倒リスク(オッズ比)は1.36であり、20歯以上の者との間に有意差は見られなかった。

さらに、全国24市町村の大規模追跡研究によって、口腔機能低下と転倒との関係を検討した。
対象者は、日常生活動作が全自立で過去1年間の転倒経験のない65歳以上の男性19,995名、女性20,858名とした。
介護予防の基本チェックリストにある質問、「半年前に比べて固いものが食べにくくなりましたか」、「口の渇きが気になりますか」、「お茶や汁物などでむせることがありますか」への回答と、3年後の調査における過去1年間の複数回の転倒経験の有無との関連を検討した。
その結果、年齢、教育歴、所得、抑うつ、手段的日常生活動作、Body Mass Index(BMI)、転倒に関連する疾患、主観的健康感、社会参加、一日平均歩行時間、飲酒習慣、歯数と義歯の使用状況、自治体の人口密度の影響を考慮しても、口腔機能低下を自覚している者は自覚していない者に比較して、転倒リスクが高い傾向がみられた(図2)。

特に、男性では口渇が気になると回答した者は1.41倍、女性ではむせることがあると回答した者は1.64倍、有意に転倒リスクが高かった。

歯の喪失や義歯未使用から転倒に至る予想経路は次のとおりである。
ヒトは頭部が重いために身体の重心が上半身にある。
そして、咀嚼筋や歯根膜から脳に向かう求心性の線維によって頭部の平衡が維持されている。
そのため、歯の喪失や義歯未使用による咬み合わせの喪失は、咀嚼筋や歯根膜からの神経伝達を減少させて頭部を不安定にし、その結果、身体の重心が不安定となり転倒リスクが上昇するという可能性がある。
事実、無歯顎者を対象とした研究では、義歯装着時の方が未装着時よりも重心動揺が少なく直立姿勢が安定することが報告されている。
また、高齢者の追跡研究では、咬合の喪失がその後の脚力やバランス機能の低下につながることが報告されている。

歯科疾患実態調査によると、調査年ごとに平均現在歯数は増加しているが、直近の2016年においても、日本人の70歳以上では平均歯数が20を下回っている。
平均寿命が世界トップクラスとなった日本では、転倒を防止して健康寿命を延ばすためにも、高齢になってもできるだけ多くの歯を維持することが重要である。
すなわち、歯周病やう蝕の予防が普及し、すべての国民が高齢になっても多くの歯を保ち、歯を失うことから高まる可能性のある転倒リスクが防止されることを期待したい。

また、口腔機能低下が転倒に先行することや、義歯未使用による転倒リスク増加のエビデンスを踏まえて、口腔機能向上と運動機能向上の複合プログラムを開発することで効率的な介護予防が可能となると思われる。
関連機関との連携による、歯科からの健康寿命延伸が期待される。

神奈川歯科大学大学院歯学研究科
口腔科学講座(社会歯科学分野)教授
山本龍生