2018年05月02日
皆様こんにちは。東京都世田谷区で開業しております岩野義弘です。
第2回は、「二人三脚で取り組む歯周治療」と題し、いかにして患者さんにも積極的に治療に参加していただくべきかを考えました。
そのなかで、スペシャリストたるわれわれには、知識を得るための日々の努力が必要であるとお伝えいたしました。
そこには、時間、費用、そして莫大な労力を要します。
それはわれわれにとって苦痛なことなのでしょうか。
そこで第3回は、「学び向上する喜び」と題し、歯周治療を行ううえで押さえておきたい知識とともに、
知識を得ることの意義について考えてみたいと思います。
ブラッシング指導が最たる例ですが、患者さんに納得して行動変容を起こしていただくためには、画一的な説明だけでは不十分です。
なぜ必要なのか、できるだけ科学的根拠に則った情報提供が必須です。
たとえばどんなことを患者さんに説明するとよいのでしょうか?
・患者さんが目指すべき数値目標
プラークコントロールレコード(PCR)20%以下:Axelssonらは375名の患者の
30年に及ぶ観察研究から、適切なSPTとともにPCRを20%以下に維持することで、
歯周炎およびう蝕の発症リスクを低く抑えることができることを示しました。
他にもさまざまな論文がありますが、30年間改善した歯周組織を維持できると
いうのは、患者さんに対してインパクトが大きいと思います。
プロービング時の出血(BOP)16%以下:Langらは、55名の患者に4年間SPTを行った後の評価より、
BOPを16%以下に抑えることで、歯周ポケットの深化を有意に抑制できることを示しました。
BOPも重要な指標です。
・非外科的歯周治療の有効性
Badersten(Egelberg先生のお姉様らしいです。先日弘岡先生に教えていただきました)らは、
49名の重度歯周炎患者に対する非外科的歯周治療の有効性を検討しました。
6年間、8編に及ぶ一連の研究結果より、単根歯ではたとえ重度歯周炎罹患歯であっても
非外科的歯周治療で十分に改善可能であることを示しました。
患者さんのブラッシングに対するモチベーションにも、歯科衛生士の治療に臨むモチベーション向上にもつながる論文です。
・クリティカルプロービングデプス(CPD)
Lindheらは、PDが2.9mmより浅い部位にSRPを行うとアタッチメントロスを生じること、
深い部位に行うとアタッチメントゲインを得られることを示しました。
SRPの意義といかにていねいに治療をしているかを伝えることができます。
・垂直性骨欠損に対する歯周組織再生療法の必要性
とはいえ再生療法を行うべき条件があります。
PapapanouとWenstromは、201名の患者を10年間追跡し、
垂直性骨欠損の深さが深いほど歯を喪失するリスクが高いことを示しました。
なぜ再生療法が必要なのかの根拠を示すことができます。
・歯周病と全身疾患とのかかわり
細かなデータは割愛しますが、慢性感染性炎症性疾患である歯周病は、糖尿病、冠動脈系疾患、心臓血管系疾患、脳血管系疾患、消化器系疾患、早産・低体重児出産、誤嚥性肺炎といったさまざまな全身疾患に悪影響を
及ぼすことが多くの研究結果から示されています。
体の中に慢性的な感染を抱えていることの異常さを、説得力をもって患者さんに理解していただけます。
・SPTの間隔
Magnussonらは、深い歯周ポケットを有する患者16名へのSRP前後における
細菌検査の結果、4~8週で運動性桿菌が後戻りし、その結果約3か月で炎症が
引き起こされることを示しました。
また他の多くの観察研究より、SPTの間隔は3~4か月を基本とし、
重症度により期間を長くしたり短くしたりするのが良いと考えられます。
以上は、患者さんへの情報提供を行ううえでもっておくべき知識のほんの一例です。
患者説明に役立つ情報に限らず、歯周病学の分野には、
押さえるべきベーシックなものから、さまざまな最新のものまで数限りないエビデンスが存在します。
日進月歩のこの分野では、新しい情報が次々と発信されます。
われわれは文献や書籍・雑誌等から情報を得るのみならず、
休日には勉強会や講演会に参加し、他の多くの歯科医師、歯科衛生士等とディスカッションして、
できるだけ多くの知識を得る必要があります。
そうして得た情報を咀嚼し、個々の患者さんに当てはめ実際の臨床に
役立てるとともに、エビデンスの存在しない分野については、
経験をもとによく考えて結論を導き出さなければなりません。
「人間はひと茎の葦にすぎない。自然のなかでもっとも弱いものである。だがそれは考える葦である」
17世紀フランスの哲学者ブレーズ・パスカルの遺書「パンセ」の有名な一節です。
考えるからこそ、人としての存在意義があります。
学び、考え、社会に生かす。人間だからこそできる特別なことです。
歯周病学に限らず歯科学は非常に奥深く、学問そのものが面白いです。
さらに、学び向上すること自体に喜びを感じることができます。
そのうえ、その結果を患者さん、ひいては社会に還元することで、
多くの方を笑顔にして差し上げることができる、本当にやりがいのあるすばらしい仕事です。
ぜひ歯科にかかわる人びとが皆同じ方向を向いて、歯科界を盛り上げていきたいですね。
喜びをもって学び向上し、患者さんに還元する。
日々のペリオが10倍楽しくなるコツの1つです。
岩野歯科クリニック
岩野義弘
⇒ http://www.iwano-dc.com/