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【6】歯周治療の着地点かつスタート地点:口腔機能回復治療

2018年06月15日

皆様こんにちは。
東京都世田谷区で開業しております岩野義弘です。
私の担当させていただきましたコラムもいよいよ今回が最終回となります。

3か月間お付き合いくださり、誠にありがとうございました。

これまでのコラムでは、楽しく充実した歯周治療を行うために、スタッフ、患者さんと協力して、向上心とやりがいをもって治療に取り組むとともに、歯周基本治療、歯周外科治療を適確に行っていくことが重要であるとお話しさせていただきました。

歯周治療で重要なのは、炎症と力のコントロールです。
前回までは主に炎症のコントロールについてのお話でした。
改善した歯周組織の長期的保護のためには、プラークコントロールを主体とした炎症のコントロールと併せて、力学的コントロールが不可欠です。
そこで最終回は、「歯周治療の着地点かつスタート地点:口腔機能回復治療」と題しまして、インプラント治療、矯正治療、補綴治療を含む口腔機能回復治療について考えてみたいと思います。

1.口腔機能回復治療とは

第4回にお示しいたしました歯周治療の流れのなかで、歯周外科治療後に行われる、歯周病によって失われた口腔機能(咬合・咀嚼、審美、発音機能等)を回復するための治療の総称です。咬合治療、修復・補綴治療、歯周補綴、歯周-矯正治療、インプラント治療、審美治療などが含まれます。

1)矯正治療による炎症と力のコントロール

叢生はプラークコントロールを困難にしたり、咬合性外傷を引き起こしたりする可能性があります。
たとえば下顎前歯部に叢生があると、前方誘導時、上顎前歯に過剰な力が加わり、歯の移動や咬合性外傷、補綴物のチッピング等が生じ得ます。
歯軸の傾斜により傾斜側に外傷力が加わると、万が一炎症が生じた場合、圧迫側の骨が一気に垂直的に吸収することがあります。

歯周炎によって生じたフレアアウトは、炎症の消退にともない元の位置まで移動する可能性もありますが、不正なままであった場合には正しい位置へ動かすべきです。
歯軸の傾斜により生じていたリセッションは、歯をボーンハウジング内へ入れてあげることで改善できるかもしれません。

矯正治療により、プラークコントロールしやすく咬合圧の適正な口腔内環境を獲得できる可能性が高まります。

2)歯周病患者におけるインプラント治療

・インフェクションコントロール

インプラント治療は、感染が完全にコントロールされた後、口腔機能回復治療の一環として行います。
歯を喪失したからといって、欠損部に対してすぐにインプラントを埋入するのは間違いです。
歯周炎の既往は、喫煙と併せてインプラント周囲炎のリスクとなることが過去の多くの報告から示されています。
また歯周治療後、インプラント埋入時における5mm以上の歯周ポケットの残存は、インプラント周囲炎発症のリスクとなると報告されています。

さらに、メインテナンス中における歯周炎の再発も、同様にインプラント周囲炎のリスクとなる可能性が示唆されています。
侵襲性歯周炎や重度慢性歯周炎患者では、さらにリスクが高まります。
しかしながら、適切な歯周治療を行った後であれば、健常者に対してインプラント治療を行った場合と同等の結果を得ることができるとも報告されています。

私は、プラークコントロールレコード10%以下を目指したうえで、すべての歯周ポケットが4mm以下となり、歯周病原細菌検査の結果、安全にインプラント治療ができると判断されてから、インプラントを埋入するようにしています。
時間はかかりますが、これがインプラントの長期的予後獲得のための一番の近道なのです。

・硬組織マネジメント

歯を喪失すると、たとえ歯周組織の健康な歯であっても、それにともなう束状骨の吸収が顎堤の吸収を引き起こします。
その喪失率は、水平的には約20~40%、垂直的には約60%と報告されています。
歯周炎に罹患していた歯であれば、喪失率はさらに大きくなります。
そのため、歯周病患者に対してインプラント治療を行う場合には、硬組織マネジメントが必要となることが多いです。
硬組織マネジメントは種々方法がありますが、私は自家骨および骨補填材料を用いたGBR法を選択することが多いです。
他にチタンメッシュを応用した骨造成法や、自家ブロック骨移植、仮骨延長術等があります。
骨補填材料として私は、サイナスフロアエレベーションにおいては吸収性の材料を(サイナスフロアエレベーションにおいては、どの骨補填材料を用いたとしても同等の臨床結果が得られると報告されています)、吸収してほしくない条件であるリッジオグメンテーションにおいては、非吸収性の材料を用います。

・軟組織マネジメント

インプラント周囲に厚みのある角化粘膜が存在しないと、プラークコントロールが不良となった場合に粘膜の炎症を引き起こしやすく、また周囲の骨吸収が起こりやすいと考えられています(この考え方には賛否あります)。

私は二次手術時、プラークコントロールしやすい環境を獲得するため、多くのケースで遊離角化粘膜移植術を行います。
ちなみに角化粘膜の移植は、歯周外科治療のなかでももっとも簡単な手技の1つです。
また審美部位においては、軟組織のボリュームを増大する目的で、結合組織移植術を併用することが多いです。
これは複数回行うこともあります。
結合組織片は、口蓋粘膜の第一小臼歯遠心~第一大臼歯近心から採取することがほとんどです。
この周囲からがもっとも質の高い結合組織を得ることができます。
口蓋から採取する場合には、ライン状の切開のみで縦切開は加えません。
ただし慣れるまでは、近心に縦切開を加えるトライアンギュラー切開とするなど、可視条件下で行ったほうが安全です。
上顎智歯がなく、吸収しにくい結合組織が欲しい場合には、上顎結節から採取します。
これらオペにおいて私は、よく切れる#15cメスを用います。
切開を始める段階で新しくメスを付け替えるのがミソです。
軟組織マネジメントは、とくに繊細な手技が必要となるため、拡大視野下で行うことが必須です。

2.補綴物がプラークリテンションファクターとならないように

歯周基本治療において、不良補綴物を除去したうえでスケーリング・ルートプレーニングを行います。
不良補綴物はプラークリテンションファクターとなるからです。
補綴治療においては、当然のことながら細心の注意を払い、補綴物のオーバーハング、オープンマージン等が生じないよう、拡大視野下での支台歯形成・印象採得、歯肉圧排等の基本的操作を行わなければなりません。
材質としても、歯肉に近い部分はプラークの付着しにくいセラミックまたはジルコニアとするべきと考えています。

3.咬合に留意した口腔機能回復治療

口腔機能回復治療では、矯正治療にせよ、補綴治療にせよ、新たな咬合が付与されます。
そのため、このステップは本当に注意しなければなりません。
口腔機能回復治療は、適切な咬合高径、顎位でなされる必要があります。
顎位が正しくなければ、早期接触や咬合の不調和が生じます。
顎関節が正常でないままなされた場合には、その後ズレが生じてきます。
そこから咬合性外傷や歯の破折、関節円板の転位や顎顔面筋の炎症等、さまざまな問題が生じる可能性があります。
せっかくここまで頑張ってきたことが、無駄になってしまうおそれがあるのです。
顎口腔系に調和した、適切な補綴・矯正治療を行う必要があります。

4.歯周組織の長期的な維持安定のために

口腔機能回復治療が終わってからが本当のスタートです。
われわれはそこをよく認識し、大切な患者さんの口腔内を生涯にわたって維持していくための、適切なメインテナンスを行っていく必要があります。
口腔機能回復治療は、決してゴールではないのです。

本コラムの第3回でもお話しさせていただきましたが、歯周病学は非常に奥深く、面白い学問です。
これは歯科医療全体にも言えます。
さらに、学び、向上すること自体に喜びを感じることができます。
そのうえ、その結果を患者さん、ひいては社会に還元することで、多くの方を笑顔にして差し上げることができる、本当にやりがいのあるすばらしい仕事です。

患者さんの幸せな人生の一助となれるよう、少しでも寄り添っていけるよう、スタッフと協力し、患者さんにもご協力いただき、向上心をもって、日々研鑽しつつ、楽しく歯周治療を行っていきましょう。

岩野歯科クリニック
岩野義弘
http://www.iwano-dc.com/