2018年02月19日
子どもは、手指の発達とともに歯ブラシを指先で軽く持つ。
そして毛先を目的の歯面に当て、適度な圧をかけて磨くことができる。
さて混合歯列期に入ると、歯の交換とともにリスクの高い部位が変化する。
成書には、口腔を1:上・下 2:左・右 3:前・臼歯 4:頬舌・咬合面の計16部位に分けて指導すると書かれていた。
しかしこれは、各部位が同じ重さを持つという発想である。
手指の発達的な視点に基づくものではない。
発達から考えると、1つの部位からスタートし16の部位へと広がる。
すべての部位を磨くためには、充分な手指の機能を持つことが必要だ。
幼児に汚れを指摘しても、成人のようにすべてを磨けるわけではない。
“何歳になったら磨ける”と考えるよりきれいに磨ける部位を増し、ともに喜べる歯磨き支援でありたいものだ。
さて筆者は、数多くの障害を持つ子どもの診療に携わっている。
そして”どうすれば自分自身で歯みがきができるのか?”について考えきた。
定期健診では、彼らの口の周りを触わり、その部分を磨くなどの試みもした。
彼らは、その度に歯ブラシを持ち変える。
これは様々な歯面に歯ブラシを当てる練習でもある。
ある日、作業所に通っている20才の知的障害者の保護者に言われた。
「この子は、1年前作業所ではわずかな給金しかもらえませんでした。ところが、最近仕事が早くなり給金が増えたのです。先生、どうしてだと思います?」
筆者は
「休まずに通い続けたから、慣れて上手になったのではないですか?」
と答えた。
すると保護者は
「私は、歯磨きではないかと思います。昔、先生は歯を磨いてあげるように…と言っていました。でも、ある時から”どうしたら上手に歯磨きができるか?”を考えながら診療していました。以前、この子は顔を洗う時、水は指の間からこぼれ落ちていました。また、服もマジックテープでした。ところが、今では顔を洗えるし、ボタンも止めることができます。歯磨きは毎日行うからこそ、良い手の訓練になったと思うのです。」
なるほど!
彼にとって歯磨きは、
日常生活での手指の機能を高め”生きる力の向上”にもつながっていたのだ。
前 岡山大学病院 小児歯科 講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
岡崎 好秀
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