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【6】義歯調整のコツを教えます~その2

2016年09月20日

こんにちは、東京および北海道札幌市で、総義歯治療専門歯科医師として働いております松丸悠一です。

このメルマガでは「総義歯臨床のちょっとしたコツ」をテーマに、いろいろな術式や考え方がある総義歯治療に関して、
現在のところ私がスッキリしていることを中心にお伝えしていきたいと思います。

総義歯治療というと「総義歯を製作するプロセス」に意識が向きやすいと思いますが、
義歯完成後「患者さんが総義歯をうまく使えるように環境を整えていくこと」が重要です。

今回は、前回に引き続き「義歯調整」をテーマにします。

さまざまな要素があって難しく感じるかもしれない義歯調整ですが、前回では優先順位が必要なこと、
そして私のアプローチは以下の順序であることをお伝えしました。

 ●粘膜面の適合診査・調整
 ●咬合状態の診査・調整
 ●床外形・嚥下・発音の診査・調整、フードテスト

今回は上下顎粘膜面の調整が終わってからの続きとなります。

上下顎粘膜面の調整が終わると、手指圧で人工歯咬合面を押したり揺すったりしても痛みがない状態、義歯がガタつかない状態になっているはずです。

ですから以降の過程で患者さんが訴える痛みや不快感に関しては、咬合に起因する可能性が高いと診断すること、そして調整することができるわけです。

そこで初めて咬合状態を確認していきます。

咬合状態を確認するうえで、私が一番重要だと考えているのは
「患者さんがリラックスした状態での開閉口路において干渉なく咬み合っていること」です。

上下顎義歯それぞれが口腔内に収まっている時に痛みがない状態を先に確立しておくことはもちろん、
義歯を入れて咬み合わせる前に義歯を入れない状態でのリラックスした開閉口を練習してもらっておくと良いと思います。

また、上顎が不安定だと(少しゆるいと患者さんが認識していると)患者さんはリラックスできません。

上顎義歯を先に口腔内に挿入した後に下顎義歯を挿入した際もし“カパッ”と上顎義歯が外れてしまった場合、
患者さんの意識には上顎義歯が不安定との意識が残り、患者さんの咬合にも影響を及ぼします。

粘膜面調整後でも上顎の維持に不安がある場合は、下顎義歯を先に口腔内に挿入するようにしましょう。

そして上下顎義歯を無事に口腔内に挿入できたらゆっくりと閉口を指示しましょう。

咬合状態の診査・調整に関しては見落としがちなポイント2つに絞って進めたいと思います。

1.「咬み合わせた時に上下顎義歯が顎堤から動いていないか、離れていないか」
2.「咬み合わせると義歯が動くような咬合接触関係になっていないか」

まず「咬み合わせた時に上下顎義歯が顎堤から動いていないか、離れていないか」についてです。

総義歯治療とは、1本も歯が残っていない状況で粘膜上に咬合を再構築する、極めて自由度の高いフルマウスリコンストラクションです。

ですから細やかな咬合接触点の付与なども可能です。

一方で総義歯の咬合における大きなエラーはどのようなものが多いでしょうか?

左右で咬んでいるように見えて左側が顎堤から離れていたり・・・。

全体で咬んでいるようにみえて、下顎義歯が前に偏位して(滑って)咬んでいたり・・・。

実は“義歯床と粘膜面の間”で起きているのです。

“木を見て森を見ず” にならないよう、咬合時の義歯床粘膜面と顎堤粘膜と位置関係に注意しましょう。

私の場合は不安定になりやすいと思われる側を手指で顎堤側向かってわずかに押さえながら閉口させる診査を加えています。

また上下顎義歯ともに安定している場合は、口腔内に指を入れずにフリーで閉口させることに加え、
上顎義歯を押さえて閉口させた状態での確認もしています。

これは上顎の床下粘膜が下顎に比較して軟らかいために、咬合時にわずかな沈下や回転が起こりやすく、それを触診にて確認したいためです。

つまり、咬合時に「上下顎義歯が顎堤から動いていないか、離れていないか」を確認するために、
上下顎義歯が顎堤粘膜から離れていない状態、つまり固定性補綴に近い状態を意図的につくっての確認も有効だと考えています。

次に「咬み合わせると義歯が動くような咬合接触関係になっていないか」です。

今度は人工歯と人工歯の関係に注目してみましょう。

有歯顎の場合、一般的に一本の歯牙は三次元的に安定するようにさまざまな場所に接触点を持ちます。

同じように総義歯の安定といった視点で人工歯を考えると、
すべての人工歯と義歯床が連結され、
床下粘膜の上に1つのユニットとして存在しているために、
極論をいえば人工歯列のどこかに3次元的に安定する接触点があれば良いということになります。

では、人工歯1歯単位ではとくに何を注意しなければならないのでしょうか。

それは“中心咬合位における斜面での接触”です。

義歯は唾液で濡れた床下粘膜上に乗っていて、咬合した際に三次元的に義歯が安定する場所まで床下粘膜上をすべります。

また義歯が機能する際には咬合器上とは異なり、粘膜の沈下などにより義歯床粘膜面と床下粘膜の位置関係がわずかに変化します。

総義歯の咬合はまずそのような環境において義歯そのものが安定することが優先されます。

ですから義歯を不安定にする中心咬合位での斜面での咬合接触は可能な限り避ける、そして取り除くべきと考えています。

以上の点に注意して咬合の診査・調整が終われば、咬み合わせることで義歯が滑ったり動いたりしなくなっているはずです。

そこで初めて、咬み合った状態の義歯床辺縁の適合状態確認に進みましょう。

ここで私は嚥下時の下顎義歯舌側辺縁に対するシリコーン適合試験材を用いた診査をよく実施しています。

義歯の調整において、「食べるときの痛み」は、患者さんの義歯の使い方や食品の種類などにも影響を受け、使っていただきながら、
そして時に休ませながら調整を進める必要があります。

しかしながら、食事に関係なく装着しているだけでの訴え

「入れていられない」
「飲み込めない」
「しゃべれない」

などは患者さんが義歯を装着することそのものが嫌になり、義歯への順応を著しく低下させます。

ですので、

「入れていられる」
「飲み込める」
「しゃべれる」

義歯になっているかの確認をする必要があります。

下顎の後顎舌骨筋窩から前顎舌骨筋窩にいたる舌側辺縁形態は患者さんの「入れていられる」「飲み込める」「しゃべれる」に強く影響しますので、
シリコーン適合試験材などを用いて嚥下時に顎舌骨筋の緊張を妨げていないか、舌房を侵害していないかの最終チェックを行うことをお勧めいたします。

嚥下の確認を行った後、可能であればフードテストをしましょう。

ここまで確認・調整を行ってくれば患者さんは笑顔で食べてくださると思います。

食べられることを確認したら調整終了です。

総義歯臨床のちょっとしたコツ、いよいよ最終回となってしまいました。

前回に引き続き「義歯調整」というテーマで、
今回は調整における確認の順序と、とくに咬合診査に関して粘膜負担ということに注目した注意点に触れさせていただきました。

早く的確に調整をすすめるためのヒントとなれば嬉しいです。

ここまで読んでくださった読者の皆様、本当にありがとうございました。

北海道札幌市勤務・コンフォートデンタルクリニック
松丸 悠一
http://www.irebasapporo.com