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【5】義歯調整のコツを教えます~その1

2016年09月05日

こんにちは、東京および北海道札幌市で、総義歯治療専門歯科医師として働いております松丸悠一です。

このメルマガでは「総義歯臨床のちょっとしたコツ」をテーマに、いろいろな術式や考え方がある総義歯治療に関して、
現在のところ私がスッキリしていることを中心にお伝えしていきたいと思います。

総義歯治療というと「総義歯を製作するプロセス」に意識が向きやすいと思いますが、
義歯完成後「患者さんが総義歯をうまく使えるように環境を整えていくこと」が実は重要です。

今回はそのための「義歯調整」をテーマにしたいと思います。

総義歯治療とは、1本も歯が残っていない状況で粘膜上に咬合を再構築する、極めて自由度の高いフルマウスリコンストラクションです。

ですから調整可能な部位も無数にあります。

さまざまな要素がありすぎて難しく感じてしまうこともあるかもしれません。

まず優先順位を付けて考えていきましょう。

私は以下のように順序立ててアプローチしています。

1.義歯の質を維持・確認するための調整
2.患者さんの要望・希望に対する対応

これを逆にあるいは混同してアプローチしてしまい、
「誰の診断で何を目的とした調整なのか」が調整している術者本人がわからなくなってしまうことはありませんでしょうか?

まず歯科医師が患者さんに対して誠意と自信をもった態度で、義歯の質を高めるための対応することが患者さんのためにも重要だと私は考えます。

今回はその「義歯の質を維持・確認するための調整」について細かく考えてみたいと思います。

「入れ歯が痛い」
「入れ歯の合いが悪い」
「入れ歯がゆるい」
「入れ歯がうまく咬み合わない」
「入れ歯の入れ心地が悪い」
「入れ歯でしゃべりにくい」
「入れ歯で飲み込みにくい」……

さて、皆さんはまずどこを調整しますか?

たとえば、「上の入れ歯がゆるい」という訴えがあった場合を考えてみましょう。

原因として何が考えられますか?

考えられる問題を例で2つ挙げてみたいと思います。

・上顎粘膜面の適合が悪かった。
・上顎前歯部に早期接触があり、咬合するたびに上顎義歯が動かされていた。

この2点は原因が異なりますが、患者さんから「上の入れ歯がゆるい」といわれる問題点です。

総義歯調整の難しいところは患者さんが訴える1つの問題が、
義歯の適合状態と咬み合わせ、形態のバランスが相互に影響して生じている可能性があるところにあります。

ここで私は粘膜面・咬合・機能時と大きく3つに調整のステージを分け、以下のようにアプローチしています。

・粘膜面の適合診査・調整
・咬合状態の診査・調整
・床外形・嚥下・発音の診査・調整、フードテスト

では、まず粘膜面の適合診査・調整から進めていきましょう。

まずは口腔内に挿入する前に、義歯全体をよく触ってください。

尖っているところやザラついているところはありませんか?

ファーストインプレッションは重要です。

痛みや不快感につながりそうな部分を見つけたら事前に研磨しましょう。

アンダーカットはありそうですか?

強めのアンダーカットを認めたら、着脱時に引っかかりそうな場所を事前に患者さんに説明しましょう。

粘膜面の適合診査は所定の位置に義歯が位置づけられて初めて可能になります。

ガタついていたり、浮いているような感じがなくなるまではアンダーカットの調整が必要です。

着脱時に引っかかりそうな部位に軟らかいワックスを置いたり、
プレッシャーインディケーターペーストを厚めに塗ると比較的立体的にアンダーカットによる圧迫が確認できるので、試してみてください。

さて口腔内に挿入した義歯は所定の位置についたのを確認したのち、義歯粘膜面の適合診査・調整です。

そっと位置づけて外れなくなるか、浮いてこないかを確認してください。

確認が終わったらプレッシャーインディケーターペーストのような適合試験材を用いて、
手指で圧迫を加えながら粘膜面の不均一な圧迫を探しましょう。

この時の診査は、シリコーン系適合試験材でないほうが良いです。

なぜなら、シリコーン系適合試験材には「厚み」があること、そしてシリコーンが硬化する「瞬間」の適合しか診査できないからです。

粘膜面全体の診査ではその厚みにより、定位置での圧迫を検知することが難しくなります。

想像してみてください、スペーサーのないピッタリした個人トレーを用いてシリコーン印象をするようなものです。

トレーを偏位させず、厚みを出さないことって難しいですよね。

粘膜面の調整は、いろいろな角度で義歯が少し沈んだ状態を意識して行います。

もちろん粘膜面はじわっと時間をかけて変形しますし、
手指にての圧迫も人工歯部を場所を変えたり、
角度を変えたりしながら力を加えていきます。

ですから、ある瞬間だけの適合を知る診査はちょっと不向きだと思います。

ですが、細かな調整に入る前の段階で
「大まかに全体の適合状態を把握したい!」
「適合がとても不安だ……」
といった場合にはシリコーン系適合試験材は有効です。

手指での圧迫後、内面に適合試験剤の抜けがあれば同部をリリーフ、
そしてまた適合診査材を塗布、圧迫、リリーフを繰り返して加圧時の義歯床粘膜面の均等沈下をめざします。

もしかすると、
「新しい義歯だからすぐに削るのはちょっと」
「私は完成義歯の適合を信じている」
「義歯は咬合だ、内面は触りたくない」
といった声もあるかもしれません。

私はこう考えています。

義歯は硬い模型材(石膏)の上で製作されています。

ですから軟らかく、厚みの不均一な顎堤粘膜上である程度の力がかかると、高い確率で強く接触するところと弱く接触するところが生じてしまうのです。

いや、生じてしまう可能性を疑うべきなのです。

また義歯の咬合ですが、おおよそ粘膜面が均等沈下している前提で管理したほうが簡単で、
たとえばリリーフ不足で一部粘膜面が圧迫されている状況を咬合調整で解決するのは難しいと考えています。

ただ、あまり夢中になるとチェアタイムがなくなってしまいますので注意してください。

手指感覚でがたつきがなく、患者に不快感がない状態、適合診査材に部分的な強い抜けがない状態であれば、
適合試験材の均等な接触がなくても義歯粘膜面調整のゴールとして良いと思います。

いかがでしたでしょうか?

総義歯臨床のちょっとしたコツ、
今回は「義歯調整」というテーマにチャレンジしてみました。

ここでは義歯調整の優先順序と、適合検査材の使い分けなどについて触れさせていただきました。

早く的確に調整をすすめるためのヒントになれば嬉しいです。

次回は最終回となりますが、
引き続き「義歯調整」をテーマにお話させていただきます。

北海道札幌市勤務・コンフォートデンタルクリニック
松丸 悠一
http://www.irebasapporo.com