2016年07月19日
こんにちは、東京および北海道札幌市で、総義歯治療専門歯科医師として働いております松丸悠一です。
このメルマガでは「総義歯臨床のちょっとしたコツ」をテーマに、いろいろな術式や考え方がある総義歯治療に関して、
現在のところ私がスッキリしていることを中心にお伝えしていきたいと思います。
総義歯治療とは、1本も歯が残っていない状況で粘膜上に咬合を再構築する、極めて自由度の高いフルマウスリコンストラクションです。
その一方で、自由度が高いだけに製作される総義歯が患者に受け入れられるか、
そのうえで適切に機能できるかという確認作業および診断は非常に重要となります。
今回は、その確認を行う「ろう義歯試適」をテーマにしたいと思います。
さて、みなさんは総義歯製作過程におけるどのアポイントが重要だとお考えでしょうか?
私はこの「ろう義歯試適」がもっとも重要だと考えています。
なぜならば、まだ「義歯が完成されていない」状態かつ「完成する義歯にもっとも近い」状態で
患者の主訴および価値観、印象のクオリティ、咬合採得および人工歯排列の検証、発音や嚥下、審美的障害の改善などが
確認することができるからです。
完成していないわけですから、ここで問題を認めれば診査に戻ることも、印象に戻ることも、咬合採得に戻ることも可能です。
そして、患者さんに完成する義歯を疑似体験してもらうチャンス、患者さんの疑問に応え、義歯の構造や使い方についても説明して
スマートに納得してもらえる機会であるからです。
完成してしまってから「実はこうなんです」といっても患者さんは納得できませんよね?
本当はクラウン・ブリッジ&インプラントにおけるプロビジョナルレストレーションのような考え方を用いて、
本義歯同様に仮義歯を製作し、生体に受け入れられるのかの確認を時間軸を用いながらアプローチすることが理想ですよね。
しかしながら、いまのところ総義歯治療が必要とされる現場環境や治療行為に対しての費用対効果の面で、
ろう義歯試適のアポイントにてこれらの確認を行わざるを得ないことが多いのではないでしょうか?
日常においては、
「試適で何をどこまでみたらよいかわからない」
「とりあえず審美的な確認、人工歯の色と形、そして見え方を確認して終わりではだめか」
「なにか違和感などが出ても、完成義歯は違うから完成義歯でと考えてしまう」
という声を聞きます。
仮義歯を製作し、生体に受け入れられるのかの確認を時間軸を用いながらアプローチすることが不可能な場合、
ろう義歯試適が完成前に確認できる唯一のチャンスです。
重要な咬み合わせの確認を含め、重要なポイントを効率よく確認しましょう。
と、その前に、忘れてはいけないことがあります。
私たちは一般に歯科技工士とともに義歯製作を行います。
「完成義歯になる前に可能なすべての要素を確認するんだ。だから、ろう義歯は完成義歯に限りなく近い条件でないとダメなんだ」
との認識を、歯科技工士・歯科医師ともに事前に共有することを心がけてください。
ここでの考えのすれ違いは意外に見落とされてしまいがちですが、治療を成功させるうえで非常に重要だと思います。
なぜなら、それがろう義歯そのもののクオリティに影響すると信じるからです。
さて、さっそくろう義歯試適の流れに進んでいきましょう。
まず、手元に咬合器とマウントされた作業模型・人工歯排列されたろう義歯があるはずです。
なんといっても重要なのは咬合の確認ですので、事前に咬合器上での以下の2点を確認しましょう。
・作業模型との適合チェック
はじめに咬合器上で人工歯咬合面を模型に押し付けるようにあちこち押してみましょう。
この状態で、作業模型からろう義歯の仮床がカタカタ音がしないか注意してください。
・対合歯と咬合接触状態チェック
では咬合紙をそっと咬ませてみましょう。
ある程度左右臼歯部が均等に接触しているか、その接触点は斜面上での接触でないか確認してください。
これが斜面上にあった場合は、実際の口腔内では義歯を動かす接触となるので注意してください。
それでは、模型から取り外してろう義歯全体に鋭縁部やザラつきなど、患者さんが不快になるような要素がないか確認してください。
口腔内挿入時の患者さんのファーストインプレッションは重要です。
では、患者さんの口腔内での確認に移ります。
試適のときも義歯調整の基本と同様に、確認しやすいところから確認していく。
足元から固めていくようなアプローチが有効です。
・上顎後縁のチェック
上顎の場合はまず挿入してアーラインを確認、仮床後縁の設定を済ませましょう。
上顎後縁部の長さは維持・安定に影響しますので、維持・安定の確認の前に行っておくべきです。
・上下顎それぞれの維持・安定のチェック
片顎ずつ挿入して、臼歯部でそっと押さえた後、維持が得られているか(吸着しているか)、外れてこないかを確認します。
その後、排列されている人工歯咬合面を固有咬合面に対して垂直に押すイメージで指圧して、安定しているか(転覆しないか)を確認していきます。
・咬合のチェック
ここで初めて上下のろう義歯を口腔内に入れ、咬合を確認しましょう。
前回のテーマである咬合採得の内容でも述べましたが、
患者さんがリラックスできる状況、より完成義歯に近い状況で咬合は確認されるべきであり、また変化する可能性をもっています。
そして、咬合採得時にろう堤を用いていたのであれば、軟らかい材料による面接触での記録だったはずであり、
試適の際の人工歯間での接触状態は硬く、そして点接触となることにより、高精度で確認が可能となっているという認識が必要です。
・審美的要素・咬合平面・周囲軟組織との調和のチェック
ここはみなさんが良くチェックされるところと思いますので、今回は試適で重要な舌房と下顎咬合平面に関してのみ触れます。
軽く開口してもらったときに、口角と下顎小臼歯部咬合面が概ね一致していることを確認してください。
そして、大臼歯部は舌と頬粘膜に挟まれ咬合面のみしか見えないこと、舌背のカーブが終わったところに
下顎咬合平面が概ね設定されていることを確認してください。
・違和感のチェック
咬合が安定していることが確認できれば、違和感の確認を行います。
ここでの違和感とは患者さんが新しく入る義歯はどういうものなのかという疑問も含みます。
患者さんの違和感を確認し、もし違和感や質問があった場合には、ここで十分に時間をかけ説明しておく必要があります。
・発音・嚥下のチェック
発音の確認は、義歯の形態によってもっとも影響がでやすい「サ行・タ行」を組み合わせたちょっと笑顔になるフレーズや、
あるいは患者さんが少しだけ考えてから発音するような指示を用意しておくと良いと思います。
たとえば、下記のような例があります。
・「さくらがさいた」「おすし、おさしみ、たべたいな」と発音してください。
・20から逆に数字を読み上げてください。
発音に関する患者さんの反応は時として非常にデリケートなので、患者さんに許可を得て録音しておくのも有効です。
客観的に発音に問題がない場合は「すごく良い発音ですね」と声をかけるようにしてください。
嚥下の確認は、飲み込みにくくないかどうかを確認すればOKです。
いかがでしたでしょうか?
総義歯臨床のちょっとしたコツ、今回は「ろう義歯試適」というテーマにチャレンジしてみました。
まずはチェックして評価する習慣をつけるきっかけにしていただけると嬉しいです。
次回は「印象採得」をテーマにお話させていただきます。
北海道札幌市勤務・コンフォートデンタルクリニック
松丸 悠一
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