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実践 早期治療:咬合誘導から始まる生涯メインテナンス【6】ゆとりのあるスローライフと健康を求める時代!

2019年03月15日

(1)8020達成者の咬合

宮崎ら1)の研究によると、8020達成者には反対咬合の患者はいないと述べている。図1、2は当院の患者さんであり、写真撮影時には8529(図1)と8029(図2)の達成者で、20年以上メインテナンスに通っている。
現在はともに8729と8229になっている。

当院の8020達成者の患者さんの特徴を調べてみると、やはり反対咬合の患者はおらず、すべて上下顎犬歯が残存しており、咬合を調べると犬歯誘導が保たれていた。


図1 当院の8020達成者の口腔内。


図2 20年以上メインテナンスに通っている。

反対咬合者は、正常歯列者よりも見た目が悪いだけでなく、80歳以降の歯牙欠損が多く、食生活でも不自由をきたしていることが想像される(図3)。
よく噛めない⇒脳に刺激が行かない⇒認知症を起こしやすい、という発表もよくされており、反対咬合者は健康寿命も短くなっている可能性が高い。
逆に正常咬合者は健全永久歯が残存しやすく、健康寿命の延伸されている可能性も高い(図4)。


図3 反対咬合の治療例。        


図4 反対咬合(少数歯)の治療例。

(2)近未来のGPは国民の健康寿命延伸に貢献できる!

8020達成者の咬合から学べることは、反対咬合だけでなく、小児期の不正咬合を早期に正常咬合にすることは、80歳以上の国民の健康寿命延伸にまで関与でき、GPの貢献度は非常に高くなるということである(図5)。


図5 小児期の不正咬合を早期に正常咬合にすることで健康寿命の延伸に寄与できる。

よってわれわれGPの近未来における対応すべき時期は、以下の3つに分けられる。

[1] under 20
咬合誘導、すなわち「不正咬合の芽を早期に発見し、可及的早期に正しい方向に位置づけること」によって、20歳(under 20)までに正常咬合に導き、口腔機能を向上させる。

[2] 20歳~60歳
歯科医院に定期的にメインテナンスを行うことにより、う蝕・歯周病管理は当然として、その口腔機能を維持する。

[3] 60歳以降(over 60)
口腔機能の低下を少しでも遅らせる努力を、生涯メインテナンスを通して実践し、国民の健康寿命の延伸を図る。

以上がGPの役割となっていくことだろう(図6)。
もう削る・詰めるなど、口腔という狭い領域に留まる時代は終わり、全身から診て、国民の健康に積極的に関与する時代になったのである。


図6 健康寿命の延伸に寄与する生涯メインテナンスの実践が求められる。

(3)まとめ:早期治療(≒咬合誘導)の賛否
早期治療の賛否については、矯正開始時期の議論とともに昔よりあるたいへん難しい問題で、近年では2002年と2005年にAAO(アメリカ矯正歯科学会)International symposium on Early Orthodontic treatment においてもその賛否が問われた。
早期治療を疑問視するグループは「早期や後期に治療を開始してもいずれも効果は同じであり、この臨床結果に基づき、骨格性、歯性の効果に有意差はない。」という見解を発表している。
またこれらの見解は日本の矯正歯科学会(JOS:2014年)や日本歯科矯正専門医会(JSO:2016年)の『上顎前突に対する矯正歯科診療のガイドライン』に大きな影響を与えた。
しかし、早期治療 vs 後期治療の論争について文献レビューしてみると、早期治療をすれば利益をもたらすはずの方法について徹底的な評価を試みないまま、これらのⅡ級不正咬合治療に関する論争をすべての早期治療に広げているようにも感じられる。

患者および歯科医師双方にとってたいへんな時間と労力のかかる咬合誘導に対し、多くの矯正専門医が批判的なことは重々承知している。
できれば短期間にかつ最小限の矯正治療で終えることは理想である。
しかし、ゆっくりとした時間の流れの中で、子供の成長発育とともに、う蝕や歯周病を予防し、健全な永久歯列の完成を目指す咬合誘導を、あらためて見直し、患者さんも家族も歯科医師も、ゆとりのあるスローライフと健康を求める時代が来ているような気がする。

参考文献
1.宮崎晴代,茂木悦子,斉藤千秋,原崎守弘,一色泰成,鈴木伸宏,関口 基,湯浅太郎.8020達成者の口腔内模型および頭部X線規格写真分析結果について.日矯歯誌 2001;60(2),118-125.

関崎歯科医院 院長
関崎 和夫