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地域包括ケアを支える次世代型歯科医院【2】行政と業務委託契約を結んだ歯科医院

2018年10月11日

日経デジタルヘルスがWEBで連載している「製薬企業がクスリを売らなくなる日~Beyond the Pill~」という記事がいま大きな反響を呼んでいます。

製薬企業の幹部が発した「20年後に我々は薬を売っていないかもしれない」という言葉から始まる記事では、医療財政悪化にともなう薬価の連続切り下げといった環境変化によって、製薬企業が医薬品販売(モノ売り)から治療を軸に新しい予防・診断・予後を組み合わせた提案ビジネス(コト売り)にシフトしていることを紹介しています。

歯科界においても、疾患にこだわり、う蝕と歯周病の予防だけが目的となっている古い予防歯科から栄養や運動の指導も軸に加えて健康を守る新しい予防歯科にチャレンジしている歯科医院があります。
その一つが北海道妹背牛町にある定岡歯科医院(定岡雅則院長)です。
定岡歯科医院が立地する妹背牛町の人口は2,986人(2018年10月1日現在)で、北空知医療圏全体でも32,000人ほどです。
高齢化率も妹背牛町が43.6%、北空知医療圏では40.3%で、いずれも全国平均の高齢化率26.6%を大きく上回っている状況です。

このような環境下で地域住民に歯科医療サービスを提供している定岡歯科医院は、妹背牛町と介護予防・日常生活支援総合事業に関する業務委託契約を昨年度と今年度に結んでいます。
契約書上の事業内容は、口腔機能の維持向上の指導、生活および介護予防の指導となっています。
う蝕と歯周病の予防だけを目的としない新しい予防歯科の事業内容です。
団塊の世代が後期高齢者ゾーンに入ってしまう2025年度を目途に、地域包括ケアシステムの構築を推進している国の方針に従い、いま各自治体は地域の特性を考慮した高齢者保健福祉計画や介護保険事業計画を策定しています。
定岡歯科医院が取り組む健康を守る新しい予防歯科は、妹背牛町の策定した介護保険事業計画にマッチした取り組みなのです。
従来の予防歯科だけでは超高齢社会が抱える課題に十分に応えることができなくなっている状況を先述の製薬企業の幹部ならどうコメントするでしょうか?

定岡歯科医院が新しい予防歯科に取り組むきっかけになったのは、「デンタルダイヤモンド」誌の2014年1月号に掲載された花田信弘教授(鶴見大学歯学部検索歯学講座)が書かれた「歯科業界の産業革命~目指すものは信頼される街の総合保健室への進化」という寄稿文です。
その中で、古い予防歯科と新しい予防歯科の違いが解説されています。

定岡歯科医院では妹背牛町の総合保健室を目指して、2014年8月から院内研修が始まりました(図1)。

弊社が提供した研修内容は「患者さんの健康寿命に役立つ情報提供の仕方、健康長寿のための食生活アドバイス、舌診でできる健康チェック」など、新しい予防歯科に沿った内容です。
研修費用は、厚生労働省のキャリア形成促進助成金制度を活用しました。
座学研修後、学んだことを現場で数ヶ月間試してみて、「研修の学びを活かし、クライアントの健康づくりに役立つ新しいアプローチにチャレンジしよう!!」と名付けられたケース発表会が開催されました(図2)。

スタッフ全員の発表後に、スタッフの投票で決まった最優秀賞は受付部門の飯村さん・西山さんペアでした。
また、二人は自分たちの取り組みを2015年12月11日に開催された愛知学院大学歯学部同窓会主催のポストグラデュエートコースでも発表することができました。
さらに2016年8月からは資生堂の化粧療法プログラムを導入し、そのプログラムに基づいて地域交流施設で行った「口から食べる幸せをサポートするスキンケア教室」を妹背牛町が高く評価し、業務委託契約につながっていったのです。
北海道新聞や北空知新聞も複数回、記事で定岡歯科医院の健康教室を紹介しています。
新しい予防歯科の取り組みが行政との連携を可能にし、歯科医院の広報戦略とブランド戦略にも役立った貴重な事例です。

  (有)Willmake143 代表
  田中 健児