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厳しい歯科医院環境下で、院長がやってはいけないこと【2】プロダクツアウトになってはダメ ~売り手視点から買い手視点へ~

2013年02月15日

(1)本当に患者さんの視点になればやるべきことは山ほど出てくる
「プロダクツアウト」と「マーケットイン」という考え方をご存知でしょうか。

プロダクツアウトとは、企業が商品開発や生産を行う上で、作り手の理論を優先させる方法のこと。
「作り手がいいと思うものを作る」「作ったものを売る」という考え方です。

一方、マーケットインは、ニーズを優先し、顧客視点で商品の企画・開発を行い、提供していくこと。
プロダクツアウトの対義語であり、
「顧客が望むものを作る」
「売れるものだけを作り、提供する」方法を指しています。

プロダクツアウトか、マーケットインであるべきなのかは、一概にいえません。
実際、プロダクツアウトで成功した事例もあれば、マーケットインで成功した事例も無数にあります。
それだけに、どちらで展開すべきなのかを、多くの経営者が迷うのです。

ちなみに、歯科医院に限らず、技術系の企業はプロダクツアウトになりやすい傾向があります。
専門知識と誇りが、「本当に良いと思うもの」に対するこだわりを強くしてしまうからです。

プロダクツアウト型の成功例として、よく持ち出されるのがアップル社。
iMac、iPod、iPhone、iPadなど、優れたデザインと機能を備えた、エポックメーキングとなる商品を次々に開発してきました。

驚くべきことは、それがすべてスティーブ・ジョブズという1人の人間の発想から生み出されていること。
ジョブズ自身「人は形にして見せてもらうまで、自分は何が欲しいのかわからないものだ」といっています。
彼のこだわりの上に作られた製品が大ヒットとなり、しかもゆるぎない熱烈なファン層を確実に増やしているのを見ると、作り手がよりこだわったものを出していくことこそが、成功への道だと考えてしまいがちです。

しかし、それはジョブズが名プレゼンテーターであったからできたことです。
彼は新製品が出るたびに、人びとの五感に働きかけ、興味を惹くプレゼンテーションをしました。
こういったプレゼンテーションができるのは、ジョブズが「人間」というものを熟知していたからだといえます。

ジョブズの生み出した製品は、よくある技術者の独りよがりの自己満足品ではなく、人間というものを知り尽くした上に作られたものであるということ。
つまり、アップル社が生み出したのは、プロダクツアウトであると同時に、本質的な意味でマーケットインな新製品だったのです。

ここから、歯科医院が経営面で学ぶべきことは、患者さんという人間をよく知り、本当に患者さんの視点になれば、できること・やるべきことは山ほどあるということです。

(2)歯科医師ではない友人を持ち、屈託のない意見を聞こと

私は、歯科医院もこうあるべきだと思っています。
基本的にはプロダクツアウトで、医療人として、自分が信じる「最良の医療」を患者さんに提供するのです。

しかし、本質的にはマーケットインで、患者さんが医療機関に求めるものや、安心して医療を受けられることを考慮し、快適で豊かな生活を送ることができる医療を提供すべきです。
なぜなら、医療というものは、患者さんがQOLの高い生活を送るためにあるものだからです。

近年、歯科医院経営を取り巻く環境が厳しくなる中で、
「人気があるから」
「収益が増えるから」
といった理由で、新しい治療を導入したり、患者さんに勧める治療を決めているような医院も増えてきているようですが、これは医療が本来あるべき姿とはいえません。
そういった発想は、明らかに間違えたマーケットインです。
といって、自院の都合ばかりを考えた医療や自己満足の治療を無理強いするのも、間違えたプロダクツアウトです。

多くの歯科医師は、プロダクツアウトの発想はできても、マーケットインの発想はなかなか浮かんできません。
これは歯科医師だけでなく、どんな業界の人でも悩むこと。
顧客のことを考えることはできても、売り手の当事者であるだけに、顧客・患者さんと同じ立場に立って考えるのは難しいものなのです。

この問題を解決する方法は簡単。
歯科医師ではない友人を持ち、その人に屈託のない意見を聞けばいいのです。
彼らは当事者なので、患者さんがどのような点に、不便さや憤りを感じているのか、どのようなことを医院に求めているのかを明確に教えてくれます。

実際に、いろいろな人に意見を聞いてみるとわかることですが、歯科界の常識が、患者さんの非常識ということも多く、目からウロコが落ちることも少なくありません。
また、経営の参考になることも多く、私としては、彼らの意見は金の鉱脈だと感じています。

そう、厳しい歯科医院環境下で、院長がやってはいけないことのひとつは「歯科医師ばかりで集まり、情報交換をする」ことなのです。

 医療法人社団いのうえ歯科医院
 理事長 歯学博士・経営学博士
 井上 裕之
 http://www.inoue-dental.jp/