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厳しい歯科医院環境下で、院長がやってはいけないこと【5】新患を増やすことにだけに躍起になってはいけない

2013年03月29日

【1】新患を増やすだけでは収益は伸びない

手前味噌になりますが、いのうえ歯科医院はキャッシュフローが強い経営を実現しています。
売上・自費率・患者数など、具体的な数字は差し引かせさせていただきますが、その数字を聞いた歯科医院経営者からは、「信じられない!どうすれば、そんなふうになれるんですか?」と驚きと質問を受けます。

多くの歯科医院経営者は、収益を伸ばそうとしたとき、まず患者数を増やそうと考えるようです。
そして、ホームページに力を入れたり、広告にコストを投資したりします。
確かに、そういったものは重要ですが、収益を伸ばすのに、「まず新患を増やす」というのは間違えた発想なのです。

そもそも「収益アップ=患者数を増やす」という発想自体が、前時代的なものです。
というのも、バブル崩壊後、日本ではどんどん市場の成熟化がすすんでいます。
現在、スマートフォン市場など一部の例外を除けば、ほとんどの業種が成熟した市場となっているといっていいでしょう。
もちろん歯科医院も成熟期です。

【2】成熟市場では「市場シェア」より「マインドシェア」

成長期の市場では「いかにシェアを奪うのか」というのが、マーケティングの大きなテーマとなります。
成長期は、消費意欲が旺盛なので、ユーザーを確保するだけで収益を伸ばすことができるからです。
しかし、消費意欲が消極的になる成熟市場では、ユーザーを確保しても、そのまま収益には結びつきづらくなります。
事実、患者数を多く集めたものの、自費率は10~15%しかなく、治療に追われ、仕事をこなしていくことに追われているのに、ちっとも経営が楽にならない医院は多いのです。

成熟市場で重要なのは、「市場シェア」ではなく、「マインドシェア」です。
つまり、思考の中に占める自院の割合を増やすことです。
このマインドシェアは「患者様とどんな関係を構築するのか」で決まってきます。
つまり、新規患者を集めるのではなく、既存の患者様とより良い関係を構築することこそが、成熟市場で歯科医院が発展する、もっとも有効な方法なのです。

【3】新規の患者様より既存の患者様を大事に

少し話が飛びますが、マーケティングの世界では、新規のお客様に商品を購入させるのにかかるコストは、既存のお客様に商品を購入させるのに比べ、5~6倍のコストがかかるといわれています。
同じ商品を販売しても、新規のお客様と既存のお客様に販売するのでは、まったく利益率が変わるということ。
同じ売上でも、既存のお客様に販売するほうが、キャッシュフローは健全になるのです。
それに、既存のお客様がファン化すれば、そこから口コミを起こすことができます。
口コミでの集客はコストがかからず、キャッシュフロー的に理想的な集客方法です。

【4】患者様のファン化は、来院後、数回で成し遂げる

歯科医院は、市場の成熟度を見ても、キャッシュフローを見ても、新患を集めるより、既存の患者様の満足度を高め、ファン化するほうが収益は伸ばしやすいということです。

ここで多くの歯科医院経営者が陥るのが、より良い医療を提供し、ていねいに接していれば満足度が高まり、治療が終わる頃にはファンになるという考えです。

この考えは、2つの意味で間違えています。

ひとつは、より良い医療とていねいな対応を提供していればファン化するという考え。
患者様は自分が受けている治療が、どのレベルなのかはわかりません。
30代の勤務医と、ベテラン専門医に治療を受けたとしても、その違いがわかる患者様はいません。
それに、ていねいな対応は嬉しいが、それだけで医院のファンにするのは難しいものがあります。

もうひとつは、治療が終わる頃にはファンになっていただけるという考え。
患者様をファン化するのは、治療開始後、数回以内です。
そうすれば「私が今、治療を受けている医院がすごいのよ」と口コミを起こしてくれます。

タイムリーに自分が実感しているときの口コミほど強いものはありません。
それに、初期段階でファン化をすれば、流出もキャンセルも少なくなります。
初めての来院から、治療がスタートした直後までに、医院の理念やこだわり、強みや特長、院長やスタッフの人間性などを伝え、理解していただくことで、ファンになっていただくことができます。
治療を実感しながら、徐々にファン化していくのでは、ダメなのです。

多くの医院は、新患を集めることに躍起になり、来院してもらうまでは広告やホームページで、どれだけ素晴らしい医院なのかを伝えますが、来院した途端、何も伝えなくなります。
これではまるで、「医院の良い点は自分で見つけてください!」といっているようなものです。
こんな状況で、患者様をファン化できるはずがありません。

成熟期において大切なのは、新患を増やすことではなく、既存の患者様との関係を構築し、ファン化すること。
そして、そのファン化は、治療を受けながら徐々に成し遂げていくのではなく、少なくても来院後数回以内に成し遂げることが重要なのです。

この重要な部分に、持てる力を集中することができるかどうか。
それが経営における勝ち組と負け組を決めるのです。

 医療法人社団いのうえ歯科医院
 理事長 歯学博士・経営学博士
 井上 裕之
 http://www.inoue-dental.jp/