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厳しい歯科医院環境下で、院長がやってはいけないこと【4】目の前のことにとらわれた「視点の低い」経営をしてはいけない 

2013年03月15日

【1】 「冬の時代」の今こそ、高い視点で経営を見直そう

時々、歯学部の学生と話をする機会がありますが、将来に対する不安を抱えている人が多いことに驚かされます。
それも、どうすれば開業後、歯科医院経営を成功させることができるのか、といったことを質問してくる学生がいます。

京都大の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したiPS細胞の登場により、医療の世界は大きく変わることになります。
失った歯を自分の細胞から再生することができるわけで、歯科は今後、医療の最先端に躍り出ることになるでしょう。

こんな時代に、医療人として、自分の知識や技術をどう高めていけばいいのかを悩むならまだしも、将来の経営について悩むなんて、相談を受けた私が不安になってきます。

人間は、どんな高さに立つのかによって見える風景が違ってきます。

身長170cmの人が見ている水平線までの距離はたったの約5km。
ところが1,000mの山から見ると、水平線までの距離は113km。
当たり前の話ですが、視点が高いほうが遠くまで見わたすことができます。

水平線なら、景色が違ってくる程度ですが、経営となると、そうはいきません。
低い視点で経営をしていると、目の前のことしか見えないのですから、その対応に追われながら仕事をするはめになります。
これでは、的確な経営判断なんてできるはずがありません。

ところが、高い視点になると、経営はまったく違うものになってきます。
たとえば、どんなに複雑な迷路でも、全体を見ながら、ゴールから逆になぞっていけば、案外簡単に解けることは、誰でも知っています。
経営も同じで、高い視点から経営を見て、理想の実現(ミッションの達成)から逆さになぞっていけば、経営判断を間違うことは格段に少なくなります。
もちろん、医療人として生き方を間違うこともなくなります。

歯科医院経営を取り巻く環境は、冬の時代だといわれています。

現状を打破するために、さまざまな取り組みをする歯科医院が増えていますが、その多くは、収益を伸ばすためのノウハウやテクニックを導入することに止まっています。
確かにノウハウやテクニックを知ることは大切ですが、それは目の前の問題を解決する対処療法に過ぎません。
歯科治療でいえば、むし歯を削って詰めているようなものです。

歯が悪くなるには理由があります。
生活習慣、歯磨きやケア、先天的要因、以前に受けた歯科治療の問題など、どこに原因があるのかを見つけ出し、それらを改善することで、根本的な治療を行うことができるのです。
目の前の症状だけに対処する治療と、10年後を考えた治療では、同じ治療を行ったとしても、どちらの歯が長く使い続けることができるのか、説明するまでもないでしょう。

経営でも「なぜ、収益が落ちているのか?」「なぜ、患者数が減っているのか?」という根本を改善しなければ、いくらノウハウやテクニックを駆使して問題を解決したとしても、一過性のもので終わってしまいます。
歯科治療と同じように、10年後を考えた経営をすべきで、そのために重要になるのが、やはり「視点の高さ」なのです。

【2】「志」という翼を身につけ、高い視点で経営を見つめよう

では、高い視点での経営とは、具体的にどのような経営なのでしょうか?

そのひとつが、目の前のことより、10年後のことを考えるということ。
時間軸が広がれば、自然と視点は高くなります。

この時間軸に加え、影響を及ぼそうとする範囲を広げることで、さらに視点は高くなります。
「医院の経営をどうしようか?」と自院のことだけを考えているより、「患者様にQOLの高い生活を手に入れていただくために、自院に何ができるのか?」と、医院と患者様のことを考えるほうが、視点は高くなるのです。

さらに「地域のお口の環境を守るために、自院に何ができるのか?」「歯科界を元気にするために、自院に何ができるのか?」と、自分が影響を与えたい範囲を広げれば広げるほど、視点は高くなっていきます。

自院が潤うことだけを考えている場合と、患者様、地域、歯科業界のことを考えている場合では、経営がまったく違うものになるのは容易に想像できるでしょう。
そして、後者のほうが賛同者や協力者が現れることもあり、結果は出やすいのです。
実際、日本を代表するような歯科医院経営者の多くが「志」を持っているのを見ても、これは明らかです。

かくいう私も、10年ほど前から「経営者として尊敬される歯科医院経営者を創りたい」と考えて経営をしてきました。
異業種交流会などに参加するとよくわかるのですが、歯科医院を経営していることを伝えると、「歯医者さんですか、すごいですね」とはいわれますが、「歯科医院を経営しているんですか、すごいですね」と、経営者として尊敬されることはありません。

歯科医院経営者のステータスを上げよう。
そうすれば、若い世代は歯科医院経営に夢を持つだろうと考え、さまざまな活動を行ってきました。
お蔭様で、いのうえ歯科医院は、歯科医院経営として、ひとつの成功モデルになっています。

厳しい歯科医院経営の環境下で、院長がやってはいけないこと。
それは、目の前のことや、自院の利益だけに執着する、視点の低い経営をしてはいけないということです。
今こそ、「志」という翼を身につけ、高い視点で経営を見つめ、考えるべきなのです。

 医療法人社団いのうえ歯科医院
 理事長 歯学博士・経営学博士
 井上 裕之
 http://www.inoue-dental.jp/