2018年02月05日
私は、ヨーロッパ歯内療法学会に第7回テルアビブ(1995年)から第18 回ブリュッセル(2017年)までの22年間、
連続して参加・発表してきました。
それらの専門学会で定番のテーマの1つが、
「Retreatment: 再根管治療」であり
「Success and failures: 成功と失敗」であります。
よく、根管治療の成功率は80%近くであると報告されています。
それにしては日々の臨床で根管治療をするケースがいっこうに減らないのはなぜなのでしょうか。
根管治療といっても対象が有髄歯か無髄歯かでも違ってくるし、
さらに根尖部病変の有無や大きさによっても成功率は異なります。
根尖部病変を有する歯の治療は10~20%程度成功率が減少し、
再根管治療歯となれば成功の確率はさらに減少すると報告されています。
研究者が何を目的に根管治療の成功率を調査するかによるのです。
欧米の専門医にとっても根管治療(再根管治療)は難問題であり、
その原因と対策に日々頭を悩ませています。
根管治療の相手(敵)を突きつめると細菌ということになり、
すなわち「感染症」をいかに克服するかに行き着きます。
現在の根管治療では細菌を完全に除去することは難しく、
また目に見えない小さな敵なので無菌化されたかどうかを臨床的に確認することも不可能です。
歯髄炎や根尖性歯周炎は多種類の口腔内常在菌の感染で発症・進展し、
その菌種は根管内の各部位(根管口、根管中央部、根尖部)で異なると報告されています。
病因菌はいつ何時でも私たちの歯を病気に陥れようと狙っているのです。
細菌の大きさは象牙細管の太さと同じかやや小さいことから、
う蝕巣から根管内に侵入し、さらに根管壁から象牙細管内に深く侵入・増殖します。
その細菌侵入の程度は300ミクロン(0.3mm)、
あるいは歯根表面のセメント質近くまで達するとも報告されています。
さらに細菌により被害を受けた歯髄組織(炎症、死滅)に関しても、
根管系とも称される困難な場所(主根管、イスムス、フィン、側枝など)からの除去処理が必要になります。
臨床で数多く根管治療を経験すると、
明らかに根管内に感染源が残留していると思われる症例においても、
臨床症状に何ら不都合が認められないこともあります。
この場合、歯冠部に補綴装置がしっかり装着されていて、
根尖部は狭窄して明瞭な根管が認められないような状況のこともあります。
その補綴装置を撤去して再根管治療を開始することが妨げられることもしばしばです。
感染源を可能な範囲までていねいに取り除き、
その後の患歯の状況を観察することもありと考え、
根管内を完璧に清潔にできなかったことイコール失敗と悲観しないでいただきたい。
じつは30代、40代では根管治療で失敗することはないと思っていました。
今思えばなんて生意気だったのでしょうか?
ところが50代を過ぎて臨床経験を積み重ねると、当たり前のことですが、
臨床ですべての症例を成功させることはできないことに気付くのです。
成功と失敗、そして引き分け(?)があることが臨床の根管治療なんだと。
自分の根管治療を評価する時、
治療に必要な目標を成し遂げたか成し遂げられなかったを反省することが大切です。
根管治療で大切なのは、この自己評価をどう受け止めるかです。
漠然と根管治療をするのでなく、
自分の能力や目標を意識しながら治療に取り組んでいるかなのです。
修復治療後の痛みがでると困る、
自分の根管治療がもっと完璧にできるなど、
安易に抜髄治療や根管治療のやり直しを試みることも十分検討すべきでしょう。
患者さんにていねいに説明し、
治療の方向を相談してからでも決して手遅れにはなりません。
抜髄治療や根管治療などの歯内療法に対する究極の選択肢は、
「シナイ療法」なのかもしれません。
日本大学歯学部前教授
鶴町 保
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