2018年01月05日
私は、約1年半前に『根管治療で失敗する本当の理由』(クインテッセンス出版)を執筆しました。
この本を書くことになったきっかけは、講演会や勉強会に呼ばれて講演した後などに、
先生方から質問される事項に共通性があると感じたからです。
たとえば下記のような質問です。
1.かなり自信をもって治療したが治らない。
2.時に痛みや腫れが引き起こされる。
3.臨床症状(出血、滲出液、打診痛など)がなかなかとれない
4.根管充填はいつするか? 補綴治療はいつするか?
5.再治療すべきか? それとも経過観察か?
でもよく考えてみると、このような質問内容は根管治療を真剣に行っている先生方だからこそ悩むことなのですね。
正直に言って、私も悩む問題ですので、答えに困ることもしばしばです。
なぜなら、まったく診たこともない患者さんの状況を、
悩んでおられる先生方からの説明だけで適切に判断することは不可能なのです。
また、誤った答えを述べることにもなりかねないのです。
「十人十色」「百人患者百人根管」なのです。
ケースバイケースと考えられます。
一方で、このような先生方もきっとおられることでしょう。
これまでは自己流の根管治療を行ってきて、
でも大きな事故を起こすことなく現在に至っている。
「今さら自分の根管治療の方法を大きく変える必要もない」、
講演会などに出席することに少し抵抗感があり「受講するのは時間のムダである」あるいは「こんな基本的な質問をすることに、気が引ける」
と考えている先生方です。
でも、内心では、「自分が臨床で行っている根管治療は正しいのか?」と少し不安な一面もおもちです。
拙著は、このような先生方にも読んでいただければと思い、
できるだけ簡潔に書きました。
大学で学んだ根管治療の基本は、
実際の臨床現場では通用しないということではないのです。
あくまでも臨床歯科医師とし出発点に着ける重要なポジションが与えられたのであり、
この基本を身に着けていなければ、間違った方向へスタートすることになりかねません。
ただし、歯科大学で学んだ知識が卒後臨床に通用するのは、
現代の根管治療の進歩のスピードから考えると、せいぜい3~4年と思われます。
日進月歩の歯科医療の世界の第一線に留まり続けるためには、
生涯学び続ける自己研鑽力、幅広い思考力が欠かせません。
一般歯科医師としての基本と応用の知識と技術の隔たりを埋めるべく、
日々の臨床で必ず経験する興味深い症例をピックアップし、
「なぜ失敗したか」について簡潔にまとめてみました。
その解決に向けた具体的な対処法も提示しています。
「歯と髪は、失って初めてその大切さがわかるのです」
というテレビコマーシャルを覚えておられるでしょうか。
最近の超高齢社会、患者さんは天然歯の口腔内での保存がいかに長生きの秘訣となるかを承知しています。
したがって、歯科医師の行う根管治療の良し悪しが、
歯の生命を決める最終ポイントになることも理解するようになっています。
歯をできるだけ長持ちさせたいと願う患者さんの期待に答えるためにも、
新しい知識を取り入れていかないと、技術革新のテンポに追いつけません。
かなり昔に読んだ小説を再度読む機会が一度や二度はおありでしょう。
小説のタイトルは忘れてないのですが、
内容に関してはほぼ記憶もないほど曖昧になってしまった本です。
読み返すうちに若い時の記憶がプレーバックして懐かしくなり、
一方でこれまでに味わえなかった新しい感動を覚えたり、
自分の記憶と実際のストーリーが違ったりすることはありませんか?
知識というものも同じことが言えて、自分が信じて日々行っていることも、
時々見直して軌道修正をすることが大切です。
年を重ねて積み上げた経験からの視点でもう一度原点に帰ることで、
さらに知識が膨らむのです。
シニア世代になっても腕を磨き、根管治療の革新的な仕事にも挑みたい。
患者さんの歯を長持ちさせる治療を希望する先生方に、
ぜひ一読していただきたい「学び直し」の本でもあります。
本コラムでは、拙著のなかから、読者の方々の臨床に役立つヒントをお届けてしていきたいと思いますのでご期待ください。
日本大学歯学部前教授
鶴町 保
⇒ http://www.quint-j.co.jp/shigakusyocom/html/products/detail.php?product_id=3189