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【2】根管治療のブレない基本

2018年01月15日

病気は因果関係から成立します。

病気の原因が存在して、それに生体が反応(炎症および免疫応答)した結果で病気は発症することになります。

私たちは病気になっても、体に抵抗力がある限りほとんど治ります。

自分の力で治すことができるのです。

健康な歯髄をもつ生活歯では、
外部からの侵襲に対し第二、第三象牙質を形成して歯髄を保護し、
歯を外敵から守ります。

しかし、歯髄を失った歯ではそれらの有益な働きは発揮されません。

歯髄炎や根尖性歯周炎に対する根管治療は、
細菌の侵襲と生体の防御反応により均衡している病気バランスを、
生体側に有利な方向に導くことであります。

根管治療の根本にあるのは、「人の身体に自ら治る力がある:自然治癒能力」という考えと、
1人ひとりの患者さんがもっている「治ろうとする力を引き出す」ために行うのであります(拙著『根管治療で失敗する本当の理由』Part 1参照)。

根管治療を成功に導く基本原則は、次のようになります。

1.正しい診査・診断
2.的確な根管拡大・形成および根管清掃
3.緊密な根管充填

●正しい診査・診断

どの病気でも同じことが言えますが、
最短かつ最良での治療を行うには、まず「正しい診断」を下すことです。

現代の医療は、「この病気には、この治療法に効果がある」という研究に基づいているといっても過言ではありません。

通常、治療は診断が確定してから行われます。

ところが、治りにくい病気の場合、
診断が決まらない段階で不必要な治療が実施されていることが少なくありません。

「経過不良の根管治療」の患者さんの多くは、
不必要な治療で時間と体力を消耗させてしまい、
歯科医師は精神的に追い込まれることにもなります。

●的確な根管拡大・形成および根管清掃

感染歯根から感染源を100%除去することは現時点で不可能であります。

過去には強力な根管消毒剤で細菌を死滅させようと試みられましたが、
かえって新たな病変の原因になっていることがすでに明らかにされています。

最近では、
組織刺激性の強い消毒剤(ホルマリン系、石炭酸系)を使用する治療法は敬遠し、
単に生体の自然治癒能力を発揮させる根管内環境を作り出すことに重きを置くことにしたのです。

すなわち、化学的根管拡大剤(有機質および無機質溶解剤)を併用した機械的拡大・清掃法が推奨されています。

根管内を機械的に拡大・形成しただけでは、
感染象牙質削片や歯髄残渣が残留することになります。

また、拡大器具の到達しない箇所(フィン、イスムス)にも有害物質が取り残されます。

機械的拡大の限界を補う化学的溶解・清掃作用が、大いに期待されることになります。

一方で、私たちは根管消毒剤が臨床現場でまだまだ有益であることも経験的に承知しているので、絶対に使用してはいけないとは考えてはいません。

ただし、面倒な根管拡大操作を怠り、
安易に消毒剤に頼るべきではないと申し上げたい。

●緊密な根管充填

根管充填は前項にも説明したように、
的確な根管拡大・形成および根管清掃が行われた後の最終処置であります。

ですから、根管充填単独で歯科疾患(歯髄炎および根尖歯周炎)を治癒させることはできません。

根管治療の基本原則がすべてクリアされて成し遂げられます。

最近では操作性や封鎖性を向上させる目的で、多彩な根管充填戦略が臨床に登場しています。

ガッタパーチャポイント(2%テーパー)を使用した側方加圧根管充填法は、
かなり以前から初心者および熟練者を問わず行われてきた方法であります。

その理由として、術前に自分の決めた作業長まで主ポイント根充材を挿入して確認(X線)することで、ある程度根管充填の状態を確認でき、
そして操作が比較的簡単であるからです。

ただし、臨床で遭遇するすべての症例を、
この側方加圧法でカバーできるかといえば「No」と言えるでしょう。

垂直加圧根管充填法(シルダー法、注入式など)が必要な症例、
すなわち複雑形態の根管が増えているのです。

日々の臨床で忙しい歯科医師であっても、
垂直加圧法をマスターすることは根管治療を成功させる得策になるのです。

基礎的知識と技術をしっかり身に着けていることが、
根管治療を失敗させない第一歩となります。

日本大学歯学部前教授
鶴町 保
http://www.quint-j.co.jp/shigakusyocom/html/products/detail.php?product_id=3189