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【5】根管治療の鉄人になるには

2018年03月05日

多くの患者さんは、「痛みがなくなる」こと、「物がよく噛める」ことなどを求めて来院します。

その後、歯科医師から受けた治療が口腔内で長く安定し、機能していることを望んでいます。

すなわち、
「治療結果が長期間にわたり維持・安定・機能する」という「Longevity」です。

5年前あるいは10年前に、それなりに自信をもって治療し、
術後のケアも実施していた患者さんが、治療歯の不都合で再来院することもあります。

自分では適切な考えに基づき治療したのですが、
現実は「失敗」あるいは「再発」を引き起こしてしまったわけです。

患者さんは治療が原因であると不満を言ってはいないのですが、術者は正直「ガッカリ」します。

理論的には間違っていなくても治療結果は失敗となってしまう。

臨床経験を積めば積むほど、身にしみて思い知らされることです。

一方で、完璧な処置ができず不安材料を残した状態で根管治療を終了させた症例、すなわちチャレンジケースもあります。

それなりに自信のあった症例で比較的早い時期に失敗し、
チャレンジケースでもそれなりに患者さんの口腔内に長期に維持されている、
こうした一見不合理な臨床事象はどうして起こるのでしょう。

簡単には説明できませんが、
患者さんの「治癒力」の遺伝子が強いとでも説明しておきましょう。

重症の歯であっても、その歯を残したいと希望する患者さんに対しては、
できるだけ希望に添うようにベストを尽くして治療を行ってきました。

もちろん、ただやみくもに残すのではなく、
その歯の限界も考えなくてはいけません。

1本の歯にこだわり口腔全体の調和を乱すことなども絶対に避けなければいけません。

しかし臨床現場では、「治療してみなくてはわからない」ことも起こります。

今、テクノロジーの分野で「信頼性工学」という言葉がもてはやされています。

重要な仕事を着々と進め、失敗を未然に防ぐにはどうしたらよいか。

そのための道具、手順、ノウハウを学ぶということです。

「経験が浅くても、仕事を確実に遂行できる力を身に着けさせる」
とつくられたのです。

1人の人間が経験するには限度がありますので、
ベテランでない人びとにとっては、
そういう指南書や教科書的なものがあったほうが便利かもしれません。

経験の浅い人は、仕事の手順が綿密に記されたチェックシートを与えられれば、
「この手順に従えば大丈夫のハズ」と思うでしょう。

しかし、現実はそんなに甘くはありません。

チェックシートに載っていない問題が必ず生じ、
自分の頭で解決策を捻りださなくてはならない状況に遭遇します。

たいていの人は、どこかに書いてあるのではないかとチェックシートを何回もめくり返しますが見つかりません。

そして解決するための教科書がないことに気付かされます。

料理に例えれば、料理本は役に立ちますが、
それを100回読めばプロの料理人になれるというものでもありません。

プロになるには、センスと努力が必要になるのです。

何かが身に着くのは、自分の判断で実践し失敗し、
その原因を自分の頭で考え抜いた時でしょう。

そこで初めて本人の技術、知恵になるのです。

そしてプロになる秘策は、職人的な親方・弟子関係で
「見て、手伝いながら体で覚える」ということでしょう。

弟子は、親方の下働きをしながら、その技を盗み真似をします。

最初はどうしてもうまくいきません。

「どうしてか?」と自問自答しながら失敗を重ねることになります。

ようやく親方のやり方が理解でき
「なるほど、だからこうするのか」ということで、プロの技を習得するのです。

根管治療で失敗の少ない”鉄人”になるにはどうすればよいか?

基本をしっかり身に着け、経験を積むしかありません。

貴重な臨床経験から多くのことを学ぶことが重要になります。

ただし、最初から難しい症例を1人で担当することは、
できれば避けたほうが無難でしょう。

失敗した時、それがトラウマとなり、委縮してしまうことになりかねません。

そのためには、比較的容易な症例から経験して積み重ねていくことでしょう。

もちろん、信頼する先輩の先生やベテランの先生からアドバイスを受けることも忘れてはいけません。

そしてもっとも重要なことは、医療人として患者さんを治療するのですから、
失敗して「勉強になったね」とは絶対に思わないでいただきたいのです。

日本大学歯学部前教授
鶴町 保
http://www.quint-j.co.jp/shigakusyocom/html/products/detail.php?product_id=3189