MAIL MAGAZINE メールマガジン

医療分野で情報化を普及させることが不可欠というならば

2002年10月07日

医療分野の情報化は時代の流れ、国家プロジェクトといって良い程に厚生労働省が中心になって推進していることは、前に述べさせて頂いた。

それは、IT国家として、医療分野は公共性が高く、情報化は不可欠であると言う理由である。

そして、「医療負担が今どの程度必要であるか」を、国民に広く理解してもらうためと、医療への信頼構築あるいは医療の進歩には、この「医療の情報化」が不可欠というのである。

これについては、同意せざるを得ません。

しかし、現実問題として、医療の情報化率を向上させるためには、各医療機関においては、ハードの整備はもちろんのこと、医師自体がそのシステムの概略を、少なくとも理解すると同時に、医師自体が入力できずとも、誰かが少なくともオペレーターとして入力する体制が必要であることは、言うに及ばない。

当然、労働時間の短縮や、一部紙やカルテ保存室が不必要となり、経費の削減に繋がると言う意見もあるが、コンピュータをはじめ情報機器にかかるコストは、一度それを使用した経験がある者にとって、聞き飽きた非現実的な話であって、当然コスト増が見込まれます。

すなわち、情報化への対応は掛け声だけでは医療現場は反応せず、一部の医療機関のみの対応となるのでは?

その結果、医療の情報化への取り組みに差が生じ、それが医療機関の差別化となる。

一方で、対応が進んだ医療機関は、競争力強化に繋がるという、もっともらしい意見も出てくるでしょう。

しかし、それでいいのでしょうか?

医療は、公共性が高い分野としての観点が一方でありながら、末端医療機関では競争を強いられる。一見矛盾していると思われる場面に直面します。

医療の質の向上において医療機関同士の競争、あるいは医療従事者間の切磋琢磨を否定するものではありません。

医療は公共性が高いが故に、「どのように医療の情報化を推進すれば、医療機関と患者間の信頼関係が構築され、医療情報の集約化による医療の進歩につなげられるか?」ではないかと思います。

そのためには、如何に医療機関全体に、そのシステムを推進し定着させるかではないでしょうか?

医療分野の中では、競争すべきところは競争する。一方で公共性の高い分野では、レベルを底上げする。そして、国民に等しく安心して医療を供給できる体制作りを目指す。

その公共性が高い分野では、できるだけ規格を統一し、普及率を向上させるかという観点が、必要だと思います。

まさしく「医療の情報化」はこれに該当するのではないでしょうか。

したがって、医療改革にはいろんな局面があって、「何でもかんでも競争すれば良くなる!」というのではないと断言したい。
 
 
いま医師会主導で、ORCA(日医標準レセプトソフト)というシステムが検討され、一部地域では機能しています。

このシステムは、中枢のシステムが情報化する際のコスト増に備え、医師会の中に設置し、ハードの中のクライアント(末端入力)だけを最低限度に、各医療機関が持ちコストを抑え、レセプトのシステム開発、改良、制度改革への対応は医師会が行い、同時に保険解釈もローカルルールを排除する。

また、得た情報を一元化することで、医療の傾向とそれへの対応を広く、瞬時に把握できるというシステムです。

これは中枢機能が中央にあるため、各医療機関はネット(セキュリティーの問題を注視した上で)により結ぶという、ネットワーク型ソフト(ゲームの世界では盛んな様ですが)という大胆な発想を根底に持っています。
 
 
前回も述べました。医療の情報化の流れに逆行はできないでしょう。

ならば、まず国民のためになり、合わせて医療従事者にもメリットと主体性が確保されるような、医療分野の情報化でなければなりません。
 
 
医師の裁量権が強かった過去の医療において、国民の信頼を損ねる場面があり、それが次々と表面化しつつある現在、医療従事者の主体性(裁量権にとって代わるものでしょう)を確保するには、情報化に前向きな姿勢が、我々に常に必要であると考えます。

そして、医療の情報化が、国民と医療従事者の両方にメリットがある方向に進んで行けば、きっと患者が我々に言っていただけることばは、これからも「先生、ありがとうございました。」ではないでしょうか?

この言葉に、疲れた気持ちが和みます。