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医療分野におけるカルテの電子化への思い

2002年06月03日

医療分野の情報化は厚生労働省が中心となり、経済産業省とも連携しながら検討されている様相です。以前にこのコラム欄で厚生労働省主催の保健医療情報システム検討会議事録の一幕を拝見しながら、医療分野の情報化について私の思いを述べさせて頂いたことがあります。
 
 
その後、昨年9月25日に厚生労働省から医療制度改革試案が公表されました。その内容をみると単に医療保険制度の改革に留まらず、「21世紀の医療提供の姿」として医療全般に及ぶ総合的・包括的な制度改革案としてその試案が位置づけられており、次の3点が骨子としてあげられていました。

1.患者の選択の尊重と情報提供

2.質の高い効率的な医療提供体制の推進

3.国民の安心のための基盤づくり
 
 
すなわち、これらの医療改革を具現化するために、医療全般の情報化は不可欠で、様々なインフラの整備が計画されていることが特徴といえます。
 
 
そこで、医療制度改革を実行する上で、上記3点にいずれも関連性があるカルテの電子化について、少し私見を述べてみたいと思います。

いままで、カルテそのものは医師側に帰属するものであって、医師は患者に対してその内容を開示することを前提として記載することはありませんでした。

しかし、現在検討されている医療改革はその考え方を180度変える方向性にあることは明らかです。すなわち、今後は医療行為に対する情報開示と説明責任(accountability)を尊重するため、あるいは患者の医療情報を各医療機関同士が情報提供を行い、医療連携を図るためにはカルテは開示が前提となる。その結果、今後必然的にカルテは電子化されることが不可欠になるでしょう。

私も平成11年からカルテを電子化しています。ただ、現在のところそれを印刷し、従来通り診療録として5年間保存することに何ら変わりはありません。つまり、カルテの入力方法とレセプト発行までを電子化しているのに過ぎないといった方が良いかもしれません。
 
 
カルテを電子化し、さらに現在検討されているような情報公開や医療連携に役立てるには大きな難問が山積しています。その問題点は入力の煩雑さ(キーボード操作による文字入力)、セキュリティー、プライバシーの保護、データー処理法の統一化、法律面の裏付け等多岐に渡ります。

また、電子化すると、現状の電子カルテのシステムでは内容が単純化してしまい、細かい所見(図示して記録する)や病状変化、あるいは患者とのやりとり等を記録することは困難を極めるうえ、システムが高価になったりする欠点があります。

したがって現状では、煩雑さやもの足りなさ、コストの問題等を理由に電子カルテ導入に躊躇されている先生も多いのではないでしょうか?
 
 
カルテの存在が医療行為や患者の病状を細かく記録し、医療従事者側の備忘録的記載が中心で、本人が記載し易い形式であることに重要性があるのか、それともカルテは開示するものであって、他人に分かりやすくすることが重要なのかで大きく変わってくるでしょう。

ここを明確にしないとこのカルテの電子化はいつも壁にぶつかってしまうのではないでしょうか。
 
 
現在、医科領域ではさまざまな場所で医療情報システムに関する基本的な研究が行われています。電子カルテを検討する日本医療情報学会課題研究会では、データー交換に対する規格開発が具体化しMML(Medical Markup Language)が提唱されました。

また、厚生労働省や経済産業省主管の財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)の動きも活発です。一方、歯科領域でこれらの問題を検討する場はこれほど整備されているのでしょうか。

一部でこれらに参加している様子は見られますが、是非とも我々歯科医療従事者も主体性をもって議論したいと思います。現状ではそれ以前のところで留まっているようにも見受けられます。