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訪問歯科診療をうまく進める為の留意点【5】訪問歯科診療での「患者満足」には特殊性がある

2011年12月05日

訪問歯科診療を軌道に乗せる上で、もっとも高いハードルが「患者さんを見つけてくる」ことで、3回にわたって、そのための広報活動について触れてきました。
今回は「患者満足」について述べていくことにします。
通常の外来診療でも、よく「患者満足」の重要性は取り上げられますが、訪問歯科診療でもこの「患者満足」をいかに高めていくかが、きわめて大切なことです。
ただし、外来と違い、気をつけなければならない特殊性がいくつかあります。

【特殊性その1】訪問先なので院長の目が行き届きにくい!

この点は、分院展開をされている院長先生ですとイメージしやすいかと思いますが、自分(本院)から離れた場所での診療行為は、目が行き届きにくく、いくら報告・連絡・相談を勤務医に心がけてもらっていても、どうしても漏れは出てきます。
「院長の耳に入った時点で、すでに患者さんは感情的になって怒っていた」などというケースは、本院だけで診療されている時と比べて多くなるため、院長の目が行き届かない先での患者さんからの不満を、いち早くキャッチする体制が必要になります。

【特殊性その2】患者本人だけの満足ではない!

訪問歯科診療での患者さんは、高齢である上に、中には認知症の方もいます。
仮に本人が治療に満足していたとしても、その周りにいるご家族やケアマネージャーなどの介護スタッフなどから、クレームがあるなどのケースも出てきます。
むしろ、そうしたクレームのほうが多いとみてもいいでしょう。
したがって、本人への治療満足はもちろんのこと、ご家族やケアマネージャーに対しての治療満足も必要になります。

【特殊性その3】介護の世界は思っているよりも狭い!

外来での診療は、基本的に自院と患者本人との治療のやり取りだけで完結しますが、介護の場合は、1人の患者(利用者)に対して、ケアマネージャー事業所をはじめ、訪問介護事業所、デイサービス、介護施設など多くの事業者がかかわっています。
そのため、介護の現場では、担当者会議といって頻繁に意見交換などが行われているわけですが、そうした頻繁にある意見交換を通じて、私たちの訪問歯科診療への評価や噂もまた私たちが思っている以上に広まります。
もちろん、良い評判も悪い評判も予想以上に広まるわけですから、良い評判につながるように努力すれば、「○○歯科の訪問歯科診療は素晴らしい」という評価も得やすくなります。
しかし、1人の訪問患者さんに対して、何か大きなクレームを起こしてしまって、事後処理にもミスが生じた場合には、悪い評判として伝わる速度は外来診療よりも高いと認識していて間違いありません。
以上のような訪問歯科診療の特殊性にもとづいて、訪問歯科診療先での患者満足に気をつけていかなければなりません。

患者満足につながる方法は、考えればたくさん出てくると思いますが、基本は「自分が患者だったらどうしてほしいのか?」といった観点に立つことです。
・自分が患者本人なら?
・患者の家族なら?
・患者を担当するケアマネージャーなら?
と考えてみると、良いアイデアが出てくるはずです。

たとえば、患者の家族なら、日々の自宅介護で疲れている方が多いことでしょう。
家族に対する介護(とくに親への介護)は、「して当たり前」といった昔からの風潮から、弱音を吐こうにも吐けずに苦しんでいるご家族もたくさんいらっしゃいます。
それなのに「患者さんのお口が汚れていますが、日々のケアをされていますか?ご家族である皆さんがしっかりとしてあげないとダメなんです!」と家族に突き放すようにいってしまうと…。
(この先生は、私のことをまったく理解してくれていない)と思われることは、想像に難くないでしょう。

自分が患者の家族ならと考えれば、まずは労いの言葉をかけてあげようという気にもなります。
そうした一つひとつの心配りが、患者さんのご家族に対して求められます。
自分が患者のケアマネージャーである場合、患者に訪問歯科診療を紹介したというなんらかの責任を負っています。
ケアマネージャーからしたら、歯科医院には「紹介してあげた以上は、しっかりとした仕事をしてもらわないと困る」と思っているわけです。

そうした状況下で、とくに歯科医院側からは何の治療報告もなく、突然患者のご家族から「訪問歯科診療の○○○はどのようになっているんだ!!」といったクレームや問い合わせが、ケアマネージャーに入った場合に、どのように思うでしょうか(ご家族や患者ご本人からすると、介護に関する相談は、まずはケアマネージャーにと思われる方が多いようです)。
ですから、毎回の治療状況や、今後起こる可能性のあることなどもしっかりと伝えていれば、仮に患者のご家族から、ケアマネージャーに同様の問い合わせがきたとしても、対応は変わってきます。
そうしたちょっとした心配りが、訪問歯科診療での患者満足につながるのだと思っていただきたいものです。

患者満足は、一つ二つ工夫しただけでは劇的な効果はありません。
それぞれの場面で、細やかな工夫の積み重ねが患者満足を生むことは、訪問でも外来でも同じことです。

>>全国介護歯科協会 代表 前田 先生 http://www.kaigo-shika.com/