2017年12月18日
6回連載もいよいよ最終回です。
最後の締めは、動的治療後の管理のお話です。
歯科衛生士さんの努力と患者さんの協力によって歯周基本治療、歯周外科治療が終わり、
さらには歯科技工士さんの協力のもと、咬合機能回復処置までが終わりました。
ここまでくると医院側も患者さんもひと安心、と言いたいところですが、
歯周病治療はここからが本番と言ってもいいくらいです。
つまり、生涯にわたって治療後の管理を行わねばなりません。
たとえば、風邪を引いたので内科に行ったら、
治った後も再発していないか定期的に来院してくださいと言われたことはありますか?
また、智歯の抜歯後に何年も定期的な受診を促している医院はありますでしょうか?
もちろん皆さんは即答されるでしょう、
「完治すればもういいんじゃないの?」
そのとおりです。
しかし歯周病は違います。
軽度のものを除き、一般に歯周病治療での「治癒」とは歯周組織が「臨床的に健康を回復した状態」を言います。
つまり、歯肉の炎症およびプロービング時の出血がなく、
歯周ポケットデプスが4mm未満、歯の動揺は生理的範囲を基準とする。
歯周ポケットデプスは4mm未満に改善はしたが、
歯肉の退縮や根分岐部の露出といった状態で治癒と判断することがあります。
これを臨床的治癒と言って再生というよりは修復であり、
完治とは違うということです。
したがって、再評価検査の結果、歯周組織のほとんどの部分は健康を回復したが、一部分に病変が休止しているとみなされる
プロービング時の出血を認めない4mm以上の歯周ポケット、根分岐部病変、歯の動揺などが認められる状態では、
歯周維持療法(Supportive Periodontal Therapy:SPT)を実施する必要があります。
病状安定のなかには、全身性疾患や患者側のリスクにより歯周外科が実施できない場合までもが含まれており、
定期的に再評価検査とSPTを行う必要があります。
その他、ブラキシズムや悪習癖などの存在、高度な歯槽骨吸収により歯の支持量が減少し、
生理的な咬合力でも咬合性外傷を生じやすい場合(二次性咬合性外傷)や、
全身性疾患(糖尿病など)を有する場合でも短い期間でのSPTの実施が望ましいとされています。
つまりSPTとは、病状が安定し、病変の進行が休止した状態の歯周組織を長期にわたり維持安定させるための「治療」なのです。
具体的には、
プラークコントロール、
専門的機械的歯面清掃、
歯周ポケット内洗浄、
スケーリング・ルートプレーニング、
咬合調整などからなる「包括的治療」であり、
原因因子の除去に努め、併せて口腔衛生指導や再動機づけなどを行うとされています。
一方、「メインテナンス」とは、病変の存在がまったく認められない状態が対象です。
歯周基本治療、歯周外科治療、口腔機能回復治療により治癒した歯周組織を長期間維持するための「健康管理」なのです。
歯周病は、プラークコントロールが不十分だと容易に再発することから、
定期的なメインテナンスが必須となります。
メインテナンスには、患者本人が行うセルフケア(ホームケア)と、
歯科医師・歯科衛生士による患者のモチベーションを高めるための動機づけやプロフェッショナルケア(専門的ケア)からなりますが、
いずれにせよ、メインテナンスとは、
「歯周病が完治した人の再発防止プログラム」
「歯周病が発病していない人の予防プログラム」
ということです。
車に例えると、2年に1回の車検は「メインテナンス」であり、
ブレーキが効きにくくなった場合は「修理=治療」が必要です。
このように、メインテナンスとSPTはまったく異なるコンセプトから成立しているので、
両者を混同していると患者さん自身も混乱します。
たとえば、
ポケットデプスが6mm、BOP(+)のある患者さんは動的治療が必要な状態であって、
決してメインテナンス期の患者さんではありませんことを再確認してください。
私は歯周病専門医ですから、歯周組織再生療法や歯周形成外科手術などの処置をほぼ毎日のように行っています。
そのうえで、あえて述べれば、「最高の歯周治療とは歯周病を発症させないこと」です。
もちろん、歯を抜かなければインプラントを入れる必要もなく、
インプラント周囲炎になることもありません。
このような予防プログラムは歯科衛生士さんの協力が必須であり、
私たち歯周病専門医は歯科衛生士がいなくては仕事にならないのです。
1人でも多くの歯科衛生士さんが歯周病治療に興味を持っていただけることを願いまして本連載を終わります。
参考文献
特定非営利法人 日本歯周病学会(編). 歯周治療の指針2015.
牧草歯科医院院長
牧草 一人
⇒ http://www.makigusadental.jp/